弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年8月27日

変貌する日本の安全保障

社会


(霧山昴)
著者 半田 滋 、 出版 弓立社

これだけ爆発的にコロナ禍が深刻化しているのに、政府は依然として国民に自粛を求めるだけ、外出するな、帰省するな、デパ地下へ行くな...だけ。オリンピックを強行して、お祭り気分を盛り上げておいて、それはないでしょ。「自宅療養」というのは、入院治療の拒絶ということを、政府もマスコミも国民に正直に伝えるべきです。
そして、コロナ禍対策のためのお金はつかわず、相変わらず中国・北朝鮮の脅威をあおり立てて軍事予算だけは増大させています。お隣の韓国政府は国防費をけずってコロナ禍対策にまわしました。当然です。国家を守る前に国民の生命・健康を守るのが政府の責務なのですから。ところが、日本ではコロナ禍の深刻化するなかでも辺野古新基地建設は中断することもなく進められています。ひどい話です。
著者は軍事問題に精通した日本有数のジャーナリストです。今は、法政大学などで学生にも教えていて、本書はその授業を再現したという体裁ですので、基本から軍事の常識を学ぶことができます。
アメリカが日本を守ってくれていると、ほとんどの日本人は誤解・錯覚していますが、駐米大使、外務事務次官をつとめ、ミスター外務省とよばれた村田良平(2010年死去)は、次のように語っているとのこと。
日米安保条約にもとづくアメリカ軍の基地の主目的は、もとより日本の防衛にあるのではない。アメリカは、日本の国土を利用させてもらっているから、その片手間に日本の防衛も手伝うというもの。そして、日本が世界最高額の駐日アメリカ軍の経費を負担しなければならない義務など、本来ない。もはや、アメリカが守ってやるというアメリカの発想を日本は受けるべきではない。日本の自尊心を保つためには、アメリカとの「良識をこえた特殊関係」ではない日本のほうが良いと考えるべきで、その溝があまりにも大きければ、日米安保条約を廃棄するリスクをとるほかない。
なんと、なんと、日本はアメリカの奴隷ではないのだから、もっとはっきりアメリカに対してモノを言うべきだと、元「ミスター外務省」は明言していたのです。知りませんでした。なんとなくアメリカは日本を守ってくれているなんていう幻想から、日本人は一刻も早く脱却すべきなのです。
同じように、コロナ禍対策を日本政府はきちんとやってくれるだろうという甘い幻想に浸っている場合ではありません。投票所に足を運んできっぱり「ノー」という意思表示をしないと、スガのような無能なダメ政治家と政府によって多くの国民が死に至ってしまいかねません。
北朝鮮の軍事能力も紹介されています。自然災害もあって、食糧不足が深刻化し、兵士は援農や建設工事にかりだされているようです。総兵力119万人といっても、装備の多くは旧式。空軍のパイロットの年間飛行時間はわずか20時間。これでは戦えるはずがありません。
しかし、怖いのは、特殊部隊が8万8千人もいるということ。日本は日本海側にたくさんの原子力発電所がありますから、そこを狙われたら日本はイチコロです。テポドン、Jアラートで日本政府は日本国民を脅しつけましたが、現実的な危険が原発にあることをマスコミ操作で「スルー」してしまいましたし、相変わらずしています。
アベ前首相が歴史も憲法も学んでいないことはよく知られた事実ですが、ポツダム宣言についても平気でデマをとばしていたのですね。
「ポツダム宣言というのは、アメリカが原爆を落としたあと、『どうだ』とばかり叩きつけたもの」
しかし、ポツダム宣言が発せられたのは7月26日で、原爆投下(8月6日と9日)よりも早い。アベは、歴史を知らない「歴史修正主義者」だ。これが悲しい現実です。
軍事問題というと、なんだか敬遠して専門家にまかせようという風潮があります。でも、毎日の生活は戦争のない、平和を前提としているのですから、目をふさぐわけにはいきません。350頁ほどもある大部な本ですが、やさしい語り口で展開していきます。あなたも、ぜひ読んでみてください。
(2021年4月刊。税込2750円)

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