弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年7月 1日

福岡県弁護士会報(第30号)

司法


(霧山昴)
著者 会報編集室 、 出版 福岡県弁護士会

今回は、裁判官制度改革はどこまですすんだか、を紹介します。
裁判所は果たして日常的な紛争の解決、権利の救済の場として市民から信頼され、期待されているだろうか。裁判件数は過払金請求事件の時期を除いて一貫して微増程度で推移してきた。これには、いくつもの原因・理由が考えられるが、裁判を実際に利用した人の18%しか今の裁判制度に満足していていないという調査結果は、裁判官による現状の訴訟運営について利用者たる市民の多くが納得していないということを意味しているのではないだろうか。
このリード文が論稿の基調になっています。
弁護士任官の厳しい実情
裁判所に新しい血を送り込もうということで始まった弁護士任官システムが、実は、うまくいっていません。
1992(平成4)年から2018(平成30)年10月期までの弁護士任官者の合計は、119人である。もっとも、2003(平成15)年の年間10人をピークとして、翌年は8人に上ったが、その後は減少し、2009(平成21)年から2018(平成30)年10月期までの常勤裁判官への任官は、合計33人に留まっている。
弁護士任官適格者として弁護士会としての所定の手続によって推薦したにもかかわらず、40%もの弁護士が不適とされたり、心ならずも任官申し込みを取り下げるという事態が生まれていた。これは「40%」問題と言われていました。
ところが、ごく最近(2020(令和2)年12月時点)では、「40%」が、実は、任官希望者の40%しか任官できない状況になっている。比率が逆転してしまったのです。困った状況です。
事件処理は質より量
キャリア裁判官の世界では、「できる」、「できない」という言葉が日常的に使われている。裁判所内では、この「できる」、「できない」という言葉はかなり特殊な意味であり、できるかどうかの判定は、事件の処理件数にかかわっている。月々30件の訴訟事件(新件)が来るとすれば、出来ばえはともかくとして、30件を来た分だけこなすという裁判官がとにかく断然「できる」とされる。丁寧な審理をして、いい判決を出したところで、月25件しか処理できず、決まって赤字になる裁判官は、全然「できない」と評価されても仕方がないと思われている。
裁判官の世界では「あの人は良くできる」というとき、事務処理能力の優れた、判決が手早く書けるという人という意味であり、あの裁判官は優しい人とか親切な人とか思いやりのある人という評価は重視されない。
このように、判決内容より要領よく事件処理することに一生懸命で、そういう人の方が恵まれた道を歩いていて、そんな現実を目の当たりにすると、来た仕事に全力投球する気にはなれないのも当然のこと。
そのため、本人尋問や証人尋問をしない裁判が増え、検証と鑑定は10年間で約3分の1に激減している。そこで、訴訟代理人から、「裁判所が証人調べをしない、強引な和解がある、判決の理由が乏しくなっている、高裁の1回結審が増えている」などの不満が出ている。
その結果、裁判利用者で今の訴訟制度に満足した人は、わずか18%しかいない。
判決に事実認定の緻密さが欠けてきているという批判を裁判官経験者がしている。
裁判官の3つのタイプの割合
刑事裁判官を3つのタイプに分類してみると...。
①迷信型(捜査官は嘘をつかないが被告人は嘘をつくと思い込んでいるタイプ)が3割、②優柔不断・右顧左眄型(真面目にやろうという気がないわけではないが、迷ったり右顧左眄するタイプ)が6割、③熟慮断行型(被告人のために熟慮し、正しく決断することができるタイプ)が1割。
民事裁判官には、①当事者の言い分をよく聞いて真実を見極めようという姿勢で丁寧に審理するタイプ、②とにかく一丁上がり方式にどんどん処理していくというタイプ、③真面目に取り組むつもりがなくて杜撰な処理をするタイプ、この3つに分かれる。
このうち、③のタイプは1割にも満たない、②のタイプは恐らく5~6割で、残りの3~4割が①のタイプに該当する。これに対して、いやいや、③のタイプは、もっと多い。①のタイプの裁判官は、1割にも満たないという印象だ。刑事にしても民事にしても、きちんと事案に則して物事の真実―正義の観点から考えて判断する姿勢のある裁判官は、本当に少ない。私も後者の意見と同じです。
裁判官の統制が強まっている
裁判官の統制には、いろいろな手法が駆使されている。
重要な事件については、全国の担当裁判官を集めて意見を交換させ、最後に最高裁当局が見解を示すという裁判官会同や裁判官協議会という手法により、裁判内容に対する直接的な介入も行われている。恣意的・差別的な人事運用の下で、最高裁当局の見解を示されると、素直に従ってしまう。善意からであってもその方針を既定のこととしてそのままに踏襲し、あるいは周囲の人々にもそれを求めるような感性が、生まれてきたのではないか...。
最高裁事務局は自民党の政治的意向をよく理解している。そして事務総局は、配置転換や昇進の制度を用い、自民党の意向に従う裁判官に利益を与え、その意向に反する裁判官に不利益を与えることによって、自民党の無言の命令を実現する。その結果、この動機づけの枠組みが、裁判官に対して政治的圧力をかけることになる。沖縄における辺野古新基地建設をめぐる一連の判決が、その典型例ですよね。
裁判官の人事評価とアンケート
5段階評価とあわせて個別意見を付すことができるアンケートに当会は長年とりくんでいる。ところが、弁護士のなかには裁判官に自分が情報提供したと分かると気まずくなることを心配する声も依然としてあり、消極的な弁護士が少なくない。
ペーパー回答として最多だったのは2006(平成18)年の251通で、回答者の割合が37.1%だった。その後は、回答者数が200通に達せず、回答者の割合は20%を下回り、2018(平成30)年には9.9%となった。しかし、2019(令和元)年度は、強力な働きかけの成果があり、回答数が476通(回収率36%)と飛躍的に増加した。そのなかでも、筑後部会だけは5割近い回答率を誇っています。
弁護士の裁判所依存
みずから適正な訴訟活動をしないで、真実を発見して判決したいと考えている裁判官の思いに乗っかって、報酬を稼ぐ弁護士。判事室では、この種の弁護士の話が満ちあふれている。さらに言うと、「裁判官おまかせ主義」の弁護士が少なくない。これは耳の痛い指摘です。
最後に、長く裁判官をやって今は弁護士をしている人の指摘を紹介します。
「裁判官が記録をきちっと読んで、身を乗りだして当事者の言い分に耳に傾け、洞察力をもって、事案を的確に把握し、できるだけ当事者に負担をかけないような合理的な審理を謀り、解明すべき点についての必要十分な資料の提出を当事者双方に均衡に配慮して促し、適時の和解勧告をして公正な判決を図り、鑑定が必要な場合でも鑑定人に丸投げせず、自らの頭で洞察力を働かせて推理し、的確な推認による批判に耐えうる事実認定をする方向で、謙虚に審理を進めてくれれば、医療関係訴訟は迅速適正な解決に向かうはず。しかし、そのような審理のできる裁判官は少なくないことがわかってきた。そうであるなら、訴訟進行を裁判官に委ねることなく、当事者の方でイニシアチブをとって、裁判官を育てるつもりで、裁判官に積極的に働きかけ、私たちが求める方向で審理を動かしていくしかないとの思いを強くしている。
ぜひ、会報の本文をお読みください。
(2021年3月刊。非売品)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー