弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年6月28日

脳の大統一理論

人間・脳


(霧山昴)
著者 乾 敏郎、阪口 豊 、 出版 岩波科学ライブラリー

脳は、ヘルムホルツの自由エネルギーを最小化するように推論する。これが自由エネルギー原理。そんなことを言われても、まったく何のことやら理解できません。というか想像すらできません。
「家に帰ると、窓ガラスが割れていた」という状況で、人間は、「どのような原因か」だけでなく、「それぞれの原因がどの程度、ありそうか」もあわせて推論している。
最近のスマホのカメラは2000万画素以上の画素数を有している。高級なカメラのほうは1億個以上の画素数を有している。
予測が安定していれば、精度が高い予測信号であるといえる。感覚信号と予測信号の精度のバランスをうまく操作することが、脳が環境を理解するうえで重要な意味をもっている。
脳は外環境だけでなく、自分の身体内部(内環境)に対しても、同じように「知覚」し、また、「働きかけ」ている。脳は、内臓や血管の状態をコントロールすると同時に、それらの状態を把握している。血管や内臓は自分の身体の一部ではあるが、脳からみれば環境の一つなのだ。
自分で自分の体をくすぐっても、くすぐったく感じないのは、自分がくすぐるときは、くすぐったことで引き起こされる皮膚からの触覚信号が神経系の内部で抑制されるから。
大脳皮質は1.5~4.5ミリメートルの厚さをもつ。その内部は、第1層から第6層までの6層構造をしていて、層内と層間の結合を経て、多数の神経細胞がネットワークを構成している。
1000人に1人がかかるパーキンソン病は、ドーパミンの欠乏によって引き起こされると考えられている。この病気にかかると、運動を意図的に実行できなくなるだけでなく、行動計画や問題解決、注意の移動や切り替えなどの機能が低下する。さらに、無気力、不安などが見られ、目標志向行動の低下や興味の喪失も生じる。モチベーションの欠如として捉えられる。
パーティーで急にスピーチを頼まれたとき、心臓の鼓動が早まるのは、実際のスピーチするときになってホメオスタシスに大きな乱れが起きないように、前もってホメオスタシスの設定値を変更する仕組みがあるため。感情は、内臓状態(隠れ状態)の知覚と、その内臓反応をもたらした(隠れ)原因についての相論という二つの要因によって決定される。
統合失調症では、知覚においても感覚減衰が低下する。統合失調症患者は身体を簡単に動かせる状況なのに、一定期間、同じ姿をとり続ける。
統合失調症患者は、事前の信念のみに従った、現実から乖離(かいり)した知覚や認知を得るため、幻覚や妄想をもつことになる。
赤ちゃんは、自分の期待に反するものを長い時間、注視するという経験則がある。
私たちは、環境との相互作用を通じてエントロピーを一定の範囲内に抑えることにより、ホメオスタシスを維持し、生存している。
そして、内受容感覚を通じて内環境を相論し、精度の最適化を通じて自身の状態を感じ、世界の中での自身の存在を感じることができる。
デカルトの「我思う、故に我あり」というよりむしろ、「我あるが故に我思う」なのだ。
脳についての難しい話が満載の新書です。読んで分かったつもりになったところだけを紹介しました。
(2021年3月刊。税込1540円)

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