弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年6月18日

ガザ、西岸地区、アンマン

イスラエル


(霧山昴)
著者 いとう せいこう 、 出版 講談社

「国境なき医師団」が活躍している現場を見に行く本の第2弾です。
空港の手荷物検査のときは、ノートパソコンなどは硝煙反応をみて、爆発物でないか調べるとのこと。そして、パスポートに、イスラエル入国のスタンプがあるとイランへの入国は無理。逆も同じ。いやはや、国が対立していると、そうなるのですね...。
そして、「国境なき医師団」(MSF)は、誘拐されたときに備えて、「プルーフ・オブ・ライフ」を書かされる。自分しか知らない自分の情報のこと。私だったら、何を書いたらいいのでしょうか...。すぐには思いつきません。
ガザに入る前には、両祖父にアラブの名前が入っていないかまで調べられる。
パレスチナ人の多くはガザ地区とヨルダン川の西岸地区に押し込められている。ガザ地区ではイスラム原理主義組織ハマスが支配し、西岸地区はパレスチナ自治政府の力の下にいる。この両者は対立している。
写真を外で撮ってはいけない。MSFの施設内には一切の兵器が置かれていない。誰であれ、丸腰でしか入れない。
MSFの患者には、ペインマネージメント専門の医師があたる。痛みは、精神面よりきていることが多い。痛みに苦しんでいる患者にVRゴーグルでCGを見せる。南の島の風景で、蝶や鳥が優雅に飛んでいる。
デモに参加して足を撃たれると、銃弾は出口を大きくえぐる。そして同時に傷口から外界のばい菌が入りこむ。菌が骨に感染すると、簡単に骨髄炎を起こす。抗生剤で治療するが、長期にわたる必要がある。つまり、足を一発撃たれるとは、肉をえぐられ、骨を粉々に砕かれて短くされ、感染症で体内を冒されるということ。
毎週金曜日の抗議デモで500人ほどがイスラエル兵士に撃たれている。
ドローンが一日中、上空を飛んでいる。ガザは、いつでも厳重に監視されている。
ドローンは、いくら落とされても訓練された軍人が傷つくわけではない。遠距離から正確に打つロケット弾・ミサイルと組み合わせると、ピンポイントで攻撃ができる。
イスラエルは、入植者のほとんどが公務員。個人に武器をもたせて地域に家を建てさせる。これも戦争のひとつの形態ではないのか...。
アラブの世界の全部が常時、戦争状態にあるのではない。のんびりしたアラブがあり、その裏では空爆があって銃撃もある。大やけどする大人も子どももいて、メンタルケアが必要な子どもたちもいる...。
「国境なき医師団」って、すごい活動をしているんですね。改めて心より敬意を表します。
(2021年1月刊。税込1650円)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー