弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年3月19日

住むこと、生きること、追い出すこと

社会


(霧山昴)
著者 市川 英恵 、 出版 クリエイツかもがわ

フランスでは冬の寒い時期には明渡の執行は法律で禁止されているそうです。ホームレスの人々が冬の路上で相次いで凍死したことから、それを防止するために法律が制定されたのでした。
日本でも、もっと住居の確保に力を入れるべきだと思います。少し前に、バスのベンチで寝ていたホームレスの女性が「目障り」だとして男性から殺害されたという事件が起きました。これもヘイトスピーチと同じように、現代日本から寛容の精神が薄れていることを象徴する事件だと思います。
この本は、借上復興住宅から居住している人々が追い出されようとしている現実について、そんなことを自治体がしていいのかと鋭く問題提起しています。
借上復興住宅とは、阪神・淡路大震災によって多くの住宅が全半壊し、復興住宅(公営住宅)の需要が高まったことを受け、被災自治体が直接建設し所有する住宅に加えて、URなど民間オーナーの所有する住宅を一棟または戸別に借り上げ、被災者に復興住宅として提供したもの。
神戸市は3805戸(107団地)を供給した。そして、この借上期間(20年間)の満了によって、居住者に対して、自治体が明け渡しを迫っている。今なお入居している人のほとんどは、年金暮らしか生活保護受給者。つまり、被災して自力再建が困難となった人たち。
ところが、20年たったから自治体の全部が居住者に明渡を求めているかというと、そうではない。宝塚市や伊丹市は、URと協議して全戸で入居を継続できるようにした。神戸市と兵庫県は80歳以上とか3つの条件を設定して条件に当てはまらない人だけに退去・明渡を求めている。ところが、西宮市は、無条件に全員退去を求める。このように自治体によって、対応が大きく異なった。恐らく首長の姿勢が反映しているのだろう。やはり首長がどっちを向いているかって大切なんですよね。大阪の維新の知事と市長のように、コロナ対策そっちのけで制度いじりばかりしているようでは本当に困ります。
住居や居住環境は福祉の基礎であり、安全性や構造だけでなく、住み続けることやコミュニティの維持も重要。
そうなんですよね。若いうちの引っ越しは苦もないことですが、年齢(とし)をとってからの転居は慎重に考えるべきです。住み慣れた我が家こそ心の安まるところ...、というのは真実だと、72歳になった私も実感として思います。
最近、フレイルというカタカナ語をよく見かけます。日本語に訳すと、「虚弱」という意味。これには、病気がちだとか、肉体的なものだけでなく、精神的なつよさも含まれるようです。身体的フレイルが3つのリスクを高める。うつも身体的フレイルのリスクを高める。
わずか90頁足らずの小冊子ですが、社会が敬うべき存在である団塊世代とその前の年金生活者の切実さを反映した貴重な冊子です。
(2019年1月刊。1200円+税)

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