弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年3月17日

白い骨片

ドイツ


(霧山昴)
著者 クリストフ・コニェ 、 出版 白水社

ナチスの強制(絶滅)収容所内の様子を撮った写真をこれほどたくさん見たのは初めてです。収容所内部でも抵抗運動している人たち(グループ)がいて、外の世界へ収容所の実情を知らせるため、カメラで写真をとっていたのです、まさに生命がけの取り組みでした。
カメラをどうやって収容所内に持ち込んだのか、とったフィルムをどうやって外へ持ち出していたのか、カメラは収容所内のどんなところに隠していたのか...、次々に疑問が湧いてきます。この本のなかで、そのすべてが解明されているわけではありません。
たとえば、カメラは外部から協力者によって持ち込まれたという説と、収容所に連れてこられたユダヤ人の所持品のなかから見つかったものが、こっそり抵抗グループに渡されたという説があり、どちらか決着はついていないようです。カメラは、ピント合わせの必要のない簡単な素人向けカメラだったという説もあります。
そして、カメラを向けて死体焼却の現場を取るというのは、まさしく生命かけでした。
女性たちが丸裸になってガス室へ追いたてられている写真もあります。シャワー室だと騙されていたのです。
収容所に写真部があり、そこには13人の囚人が配置されていたというのにも驚きました。でも、収容所には到着早々にガス室に送られた囚人だけではなく、政治犯やジプシーなど、いろんな人がいましたし、収容所では写真つきで囚人を管理していたのですから、写真部があるのも考えてみれば当然のことです。
写真部は、フランス人のジョルジュのほか、12人の囚人は全員ドイツ人で、共産主義者、エホバの証人、組合活動家、反ファシズム主義者だった、とのこと。
5つの強制収容所で、1943年春から1944年秋までに、隠し取りに成功していた。ダッハウ収容所で50枚以上(チェコの囚人であるルドルフ・ツィサルと、ベルギーの囚人ジャン・ブリショ)、ブーヘンヴァルト収容所で7枚(チェコの囚人3人)と、11枚(フランス人ジョルジュ・アンジェリ)、ラーヴェンスブリュックで収容所で5枚(ポーランド人のヨアンナ・シトゥオフスカ)、ビルケナウ収容所で4枚(ギリシアのアルベルト・エレラ)。
このほかソビブル絶滅収容所の写真が361枚もある。このなかには、SS将校の子孫が49枚の写真を提供したものが含まれている。
収容所内には、映画館があり、売春宿もあったとのこと。これも初耳でした。
ホールでは、見世物やコンサートもあって、ロシア人は音楽を演奏し、囚人がかの有名なコサック・ダンスを披露したのでした。
そして、収容所内に秘密のラジオがあった。受信機と送信機を設置・導入した人もいたのです。チェコの抵抗家ヤン・ハルプカといいます。逮捕され拷問を受けても仲間を明かさず、処刑された。
収容所内で20人ほどの男性がカメラに向かってポーズをとっている写真まであるのには驚かされます。カメラがあるのを問題にしている様子はありません。これは、いったいどういうことでしょうか...。
肖像写真は、この人の家族やレジスタンス組織網に提供して、ダッハウ収容所に存在していることを知らせるためのものだった。つまり、外部と連絡がとれていたというわけです。
レジスタンスに参加して捕まった若いポーランド人女性たちがウサギ(病気感染実験のモルモット)にされていました。彼女らの太腿(ふともも)の筋肉に切り込みを入れて病原菌を埋め込む実験の材料とされたのです。写真は、そんな彼女らの太ももを写したものまであります。よくぞ収容所内でこんな写真がとれたものです。そして、ウサギとされた女性の多くはあとで殺害されてしまいましたが、生きのびた人もいました。そのなかには、こんなひどい実験に対して刑務所当局へ抗議しに行った人たちもいるというのですから、まさしくびっくりです。黙って殺された人たちだけではなかったのですね...。
もっともっと、たくさんの写真を紹介してほしいと思いました。そして、その写真を撮った人、写っている人、どうやって写真がナチスの手と目を逃れて外の世界へ伝えられたのか、知りたいです。ともかく、まさしくおどろきの本です。収容所内にも「日常生活」があったことを写真によってイメージがつかめました。タイトルの「白い骨片」とは、もちろん収容所で殺されたユダヤ人など無数の遺体の骨片のことです。焼いたあと、ゾンダーコマンド(特別班の囚人)が骨を粉々にしたのですが、それでも骨片としては残ります。いま、沖縄で辺野古の埋立に骨片の入った山砂を使うなという運動が起きていますが、同じようなものです。大量殺害の事実を風化させては、忘れ去ってはいけません。少し高価な本ですので、ぜひ図書館に注文して読んでみてください。
(2020年12月刊。7000円+税)

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