弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年3月13日

椿井文書

日本史(江戸)


(霧山昴)
著者 馬部 隆弘 、 出版 中公新書

『東日流(つがる)外三郡誌』は偽書と確定していると思いますが、古代の東北に未知の文明があったとするものですから、ロマンをかきたてるものではありました。
『武功夜話』も偽書だと断言する本(洋泉社新書)を読むと、そうだよね、偽書だろうねと思うのですが、今でも偽書だと思わず平気で引用したり、いや全部が嘘ではないとする人がいたりして当惑させられます。
この椿井(つばい)文書(もんじょ)は、椿井政隆(1770~1837年)が依頼者の求めに応じて偽作した文書の総称。中世の年号が記された文書を近世に移したという体裁をとることが多いので、だまされやすい。
なるほど、コピー機がないわけですから、人の手で写しをとるしかないときに、元の文書はどこに行ったか知らないけれど、これがその写しだと言われると、紙質の新しさなんて問題にならないわけです。椿井文書は近畿一円に出まわっていて、今でも村おこしに活用されているとのこと。恐ろしいことですね...。
村と村とが対立・抗争している状況で、その有力な解決策の根拠として椿井文書が登場する。必要に迫られ、求めに応じてつくられた偽文書だった。
椿井政隆は、意識的に未来年号を使用したと考えられる。つまり「平成33年1月」というような、ありえない年号を表記したのです。これは、偽文書だと訴えられたとき、戯れでつくったものと言い逃れができるような伏線だと考えられる。さすがに考えていますね...。
国絵図にしても、描写に描写を重ねたとすることで、紙や絵の具が新しいことを怪しまれないように工夫した。
信じたい人々に、その信ずる材料をせっせと供給していたというわけです。
トランプ大統領がインチキ選挙があったと叫ぶと、「そうだ、そうだ」と応える人がいるのと、本質的に変わらない現象ですね...。
(2020年4月刊。900円+税)

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