弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年2月24日

イスラエル諜報機関暗殺作戦全史(下)

イスラエル


(霧山昴)
著者 ロネン・バーグマン 、 出版 早川書房

イスラエルに敵対するパレスチナ人の組織のトップたちの暗殺作戦が公開されていて、背筋が寒くなる本です。
イスラエルの暗殺作戦というのは、ほとんどときのイスラエル首相の承認のもとでやられていることを知りました。国として暗殺作戦をすすめているわけです。それは、自爆テロへの対抗手段であるわけですが、本当に暗殺によって自爆テロは減っているとは、とても思えません。
自爆テロの志願者は後を絶たないというのは現実です。天国に行けるし、天国に行った71人もの美女とセックス望み放題だというのです。そのうえ、残された家族への給付金もあるとのこと。
イスラエルは、自爆テロ犯人を操っている人物を割り出し、せいぜい300人から500人なので、一つひとつ、つぶして(暗殺)していくのです。すると、リーダーはどんどん若返っていき、ついには組織の運営ができなくなるというのです。
うひゃあ、そんな発想があったのですね...。
パレスチナ人を暗殺するときに欠かせないのが、ドローン。リアルタイムで空軍司令部に情報を提供する。ドローンの改良は年々すすみ、次第に搭載できる燃料が増え、カメラの性能も向上した。1990年にレーザーが整備され、停止したターゲットをビームで戦闘機に指示することもできるようになった。ドローンはサポートの役割から、直接攻撃の手段へと進化している。
暗殺は少人数の人員でやるのではない。大規模な殺人機関として、数千人が暗殺に加担していることになる。イスラエル軍の8200部隊が非公式に暗殺される人間を決めていた。そして、暗殺計画をシャロン首相が承認していた。民間人を殺すことになる命令は明らかに違法だ。
暗殺せよという「アネモネ摘み作戦」は、事前に想定されていたほどの成果をあげなかった。
自爆テロの志願者、つまり殉教者(シャビート)になろうという人間(若者)にことを欠くことはなかった。自爆テロに21歳の、2人の子どもをもつ女性が志願して、認められた。これで「闘争」は新たな段階に入った。若い女性で、しかも2人の幼児をかかえた母親が自爆テロ犯だなんて、信じられません...。2004年1月4日に自ら爆死し、4人を死なせたのでした。
イスラエルの諜報機関は、大勢のテロ工作員を殺害し、テロ指導者を暗殺したこと、暗殺システムの合理化により、自爆テロの抑止に成功した。本当でしょうか...。
暗殺には大きな代償を伴う。罪のないパレスチナ人が巻き添をくらう。テロとは無関係の人々が多数殺されている。
イスラエル国防軍の法務官が、暗殺をユダヤ教の教えにかなった、合法的で隠すことのない行為だと判断した。ええっ、そんなバカな...。
岩にカモフラージュした巨大な爆破装置がリモート操作で作動し、爆破する運転席のドアを開けると、近くにいた見張りの遠隔操作によって、ドアの内部に隠してあった爆弾が爆発した。スペアタイヤのカバーに爆弾を仕込み、車のドアを開けたときに爆発させる。ルームサービスの飲み物に毒物を混入させる。超音波を使って、肌を傷つけずに薬剤を注入する。呼吸に使う筋肉の動きが止まるため、窒息する。
ドローンをつって、飛行機からミサイルをターゲットのいるビル目がけてターゲットのいるビル目がけて打ち込むなど、ともかく暗殺技法はますます高度に発達しているようです。その最新の手口がいくつも公開されています。
ところが、イスラエルの情報機関による暗殺は、みごとな戦闘的成功をおさめているが、戦略的には悲惨な失敗を重ねている。イスラエルの指導者の大半は幻想を抱いている。秘密工作が、単なる戦術的手段から、戦略的手段になりうるという幻想を...。
でもでも、いくら暗殺を重ねたところで、究極の平和を遠くに追いやるだけなのではないかと、つくづく思いました。
決して読みたい本ではありませんが、こんな世の中の現実があるのだと思いつつ、読みすすめました。
(2020年6月刊。3200円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー