弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年2月18日

命を危険にさらして

フランス


(霧山昴)
著者 マリーヌ・ジャックマンほか 、 出版 創元社

5人のフランス人女性戦場ジャーナリストの証言です。
彼女らはフランス最大のテレビ局TF1で働いています。戦場での現場での映像取材ですから、まさに生命がけの危険な仕事です。実際に、爆撃されて生命を落とした仲間もいます。
なので、一番大切なのは、取材を終えて、無事に戻ってくること。恐怖をコントロールし、情に流されずに冷静さを保ち、一瞬で判断をくだし、ジャーナリストとして自分がやるべきことに集中する。
戦場に行く前にフランス軍の主催する数日間の研修、特殊部隊の訓練を受ける。銃撃戦に巻き込まれたときに車から脱出する方法。パニックになって弾丸が飛んでくる方向のドアを開けてしまう可能性がある。また、銃で狙われているとき、部屋の隅には避難しない。弾がはねかえってくる危険がある。銃撃を受けたとき、身を守るためには車のエンジンブロックのうしろに隠れる。木のうしろはダメ。
人質にとられたときの模擬訓練では、目隠しをされた状態で、自分のいる空間を把握し、時間の感覚を失わない方法を学ぶ。体力を温存し、肉体的にも精神的にもできるだけ長いあいだもちこたえられるようにする方法も教わる。
子どもの写真を財布に入れておかない。これは感情的な弱みを握られないため。
恐怖を感じない人はいない。出発前に恐怖を感じるには耳を傾ける。恐怖は誠実な友人のようなもので、実際の危険や想像上の危険を知らせてくれる。一度認めたら、その恐怖と距離を置いて、忘れるようにする。
戦場ジャーナリストは、戦争によるアドレナリンが麻薬のようになってしまうことが多い。兵士も戦場の経験が病みつきになる人がいるのと同じですね...。
戦場ジャーナリストの仕事は、学校や教科書で学ぶことはできない。現場で習得する。経験だけが、これほど特殊な仕事について教えてくれる。それは、もっとも基礎的なものから、もっとも複雑なものまで、さまざまな状況から救い出してくれる。
フランス特有の専門職である映像ジャーナリストは、カメラで撮影するのが仕事だが、ジャーナリストとしての教育も受けている。
実際、彼女らはフランスの超エリート校である政治学院(シアンスポ)を卒業したりしています。彼女らは、シリアに行き、リビアに行き、ルワンダに行って、死体の山々を現地でみて、カメラで映像としてとらえているのです。
日本のNHKにも、そんなカメラマンがほしいところですよね...。「アベさま(今はスガさま)のNHK」ではなく、国民のためのNHKであってほしいものですが...。
それにしても、フランスの女性もすごいです。戦場に行ってもドライヤーは必携だし、化粧道具も欠かせません。自らの顔を出した映像を送るからには、きちんと化粧しておくのは視聴者への敬意のあらわれだというのです。そのプロ根性には頭が下がります。
(2020年1月刊。1600円+税)

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