弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年2月19日

県警VS暴力団

社会


(霧山昴)
著者 藪 正孝 、 出版 文春新書

日本全国の暴力団員は最盛時に18万人いたのが、今は2万8千人になったとのこと。これには警察の取り締まりの成果も大きいと思いますが、それだけでもないようです。たとえば、暴走族は今ではほとんど見かけません。成人式での暴力的騒動も、すっかり影をひそめてしまいました。
北九州の暴力団「工藤会」とたたかってきた警察官による体験をふまえた暴力団取締の現場の話です。
工藤会が襲ったクラブ「ぼおるど」は、弁護士会の懇親会のあとの二次会の会場として、私も何回も行ったことがあります。
「ぼおるど」が襲われたのは平成15年8月18日(日)の夜9時すぎ。手榴弾が投げ込まれ、店の女性12人が重軽傷を負った。前年の4月には、営業中に糞尿をばらまくという威力業務妨害事件も起きていた。その店長も殺人未遂事件の被害者になった。「ぼおるど」は暴力団員の出入りを禁止する店であり、経営者は暴力追放に立ち上がった市民団体の代表をつとめていた(と思います)。
投げられた手榴弾はアメリカ軍の攻撃型手榴弾であり、たまたま不完全爆発したことで死者が出なかったけれど、完全爆発していたら何人か確実に死んだのは間違いない。うひゃあ、恐ろしい...。
「警察は命までとらないが、工藤会は命をとる」
これは怖いですね。実際、工藤会は漁協元組合長などフツーの市民を殺しています。暴力団担当の元刑事まで狙っていますから、やりたい放題でした。北九州は、ひところいわば無法地帯だったのです。
「ぼおるど」は、営業を再開したものの、実弾入りの脅迫状が送られるなどがあり、事件の翌月には休業し、ついに廃業に追い込まれてしまった。「逆らう者は許さない」という工藤会の目的は達成されてしまった。なんということでしょう。残念でなりません。これでひっこんでいたら日本の警察は顔がありません。
北九州市議会の議長宅、そして北九州県議会議員宅に拳銃弾が撃ち込まれる事件が相次いだ(平成16年1月から5月)。
工藤会が土木・建設業者からとっていたみかじめ料は、建築1%、土木2%、解体5%。
これは大きいですよね。大型公共工事は、全国どこでも暴力団と政治家がトータルで3~5%をまき上げていると言われています。ただし、昔からの「伝統」的な処理なので、警察が証拠をつかんで立件するのは難しいようで、これまた本当に残念です。
工藤会は平成10年に内部通達を出し、傘下の組員が警察と接触することを固く禁止した。違反したら破門・絶縁するというものだった。
暴力団を抜け出して、正業につくことを可能にする社会環境づくりも日本は遅れているように思います。どうなんでしょうか...。体験をふまえているだけに、とても説得力がありました。
(2020年5月刊。850円+税)

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