弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2003年11月 1日

雑草の成功戦略

著者:稲垣栄洋、出版社:NTT出版
 世の中に変わり者と言われる人は多い。とくに弁護士の世界では変わり者だらけと言って決してオーバーではない。かく言う私も、よく、「あんたは変わっているねー」と言われる。自分では「人格円満な常識人」だと思っているし、依頼者に対して「あなたは、もっと常識を身につけなくてはいけませんよ」とお説教することが多いのに・・・。何がそんなに変わっているのか、自分ではあまり思いあたるところがない。客観的には、それだけ本人に自覚が足りないということなのだろう。(こりゃ、ダメだ)
 ところがこの本を読んで、変わり者こそ世の中の進歩、そして生物の進化をうみ出していることを知って、大いに安心した。自然界では、生物の特性の分布は正規分布することが多い。平均値に近いものが一番多く、平均から離れるに従ってその頻度は少なくなる。ところで、平均値からかけ離れた個体が存在することによって、環境が変わると正規分布が変化していくとき重要な役割を果たすことになる。正規分布の端を切り捨ててしまうと進化は起こらなくなり、環境の変化に対応できない。変わり者こそ、進化にとって重要な役割を果たすのである。
 変わり者の私は、ここで、膝をうって、「そうだ、そうだ」と叫ぶ。この本を読むと、私たちのごく身近に咲いている雑草たちが、厳しい条件のなかで生き抜いていくために、いかに苦労と工夫をしているか、教えられる。たとえばタンポポ。花が咲き終わると、花の茎は地べたに横になる。しかし、種子ができあがると再び茎は立ち上がる。咲いている花をより目立たせるために、咲き終わった花は倒れて身を引くというのだ。なるほど、自然の仕組みは実に偉大だ。

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神様の墜落

著者:江波戸哲夫、出版社:新潮社
 昔、フランク永井の『有楽町で逢いましょう』という歌が流行った。私がまだ上京する前のことだ。どんなにか東京の有楽町に憧れたことか・・・。残念なことに、大学生になって上京してからも、有楽町にはとんと縁がなかった。理由は簡単で、有楽町でデートの約束を取りつけるような彼女を見つけることができなかったからだ。といっても、仮に見つけたとしても九州からポット出の田舎者では、デートがうまくいったはずもない。なにしろ九州弁まる出しだから、気後れして、ろくにデートのとき話もできなかっただろう・・・。それもこれも、遠い昔の話とはなってしまった。
 有楽町駅前に『そごう』があった。変なデパートだと思った。なにしろ狭い。ところが、この『そごう』、あれよあれよと見るまに全国に展開し、北九州の駅前にも出店した。そのうち海外にまで出店していった。すごいもんだなー、と感心した。ところが、この本によると、それは単なる放漫経営でしかなかった。
 百貨店というのは、規模と立地とタイミングさえよければ、どれほど低次元のプランニングでも、それなりの成果を生み出す不思議な産業なのである。『そごう』の元社長・水島廣雄は、店の成功は人材によるのではなく、もっぱら店舗そのものの条件と見ていた。経理を公開せず、取締役会すら開かずに、すべて水島社長の直観と政治力に頼って展開していった。もちろん、それを支える銀行(興銀)があった。
 それにしても、経営者の企業私物化のすさまじさには驚きかつ呆れる。怒りすら覚えた。このような低レベルのモラルしかもたない経営者が、市民に対しては「心のノート」などを使った道徳教育の必要性をぶちあげるのだから、日本の将来は大丈夫なのか、本気で心配になってくる。

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みんなのこえが聴こえる

著者:アツキヨ、出版社:講談社
 聴覚障害をもった女の子が健常者の男子とペアを組んで歌手になるなんて、とても信じられません。どうやって音程をあわせるのでしょうか?私は自慢ではなく子どものころから音痴でした。音程がうまくあわせられないのです。音域がとても狭いので、自然に自分勝手に変調してしまうのです。
 キヨは幼児期の交換輸血のため高音急墜性難聴になってしまいました。そこを本人の負けん気と母親の前向きの態度で乗りこえていくのです。それにしても、そんな彼女が歌姫にあこがれ、ストリートミュージシャンから本物の歌手になっていくなんて、この世の中もまだまだ捨てたものじゃありません。いじめにくじけず、自分の夢をつらぬいていく様子が生き生きと描かれています。読んでいてさわやかさ、痛快さを感じてくる本です。

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セロ弾きのゴーシュの音楽論

著者:梅津時比古、出版社:東京書籍
 花巻駅の近くに宮沢賢治記念館があります。そこで「セロ弾きのゴーシュ」のビデオをみて、しばし童心に帰りました。花巻温泉には夜になると「銀河鉄道」をスポットライトで浮かびあがらせる仕掛けの崖があります。なかなか幻想的なシーンが再現されます。もう一度行ってみたい場所です。
 音痴な私には音程なんて、とんと分かりません。身体の反応が鈍いのです。今さら親をうらんでも仕方がありません。私の子どもたちも親の影響を受けて音楽のセンスが弱いようです(私のように欠けているとまでは決して言いませんが・・・)。
 宮沢賢治もセロ(チェロ)を入手して練習し、上達するため上京して特訓を受けたことがあるそうです。ところが賢治は上達しなかったのです。「弘法、筆を選ばず」というが、事実は限りなく逆である。弦楽器奏者は、上達すればするほど自分に合った楽器選びが課題となり、そのことに苦労する。弘法であるからこそ筆を選ぶ。
 弦楽器は、舞台に出ても演奏前に必ずチューニングする。舞台袖や楽屋でチューニングするか、舞台に出てもう一度チューニングしなければいけないのだ。それだけ音程というのは数値を超える微妙な要素をもっている。袖と舞台とでは空間の広さがまるで違い、空気の温度、照明の度合い、出した音が跳ね返ってくる時間なども全く異なるから・・・。また、宮沢賢治の童話を読んでみたくなりました。

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スペイン内戦

著者:川成洋、出版社:講談社学術文庫
 1937年7月、マドリード防衛戦のなかで1人の日本人が戦死しました。スペイン国際旅団にアメリカから身を投じたジャック白井(当時37歳)です。
 この本は、スペイン内戦の経過を国際旅団に焦点をあててコンパクトに紹介しています。55ヶ国から4万人の若者が義勇兵として自発的に参加して国際旅団が結成され、スペイン内戦に共和国軍側兵士として闘いました。参加者の実に3分の1が戦死しました。ナチス・ドイツの後押し、スターリンの消極性もあって、結局、スペイン内戦ではファシストのフランコ将軍が勝利をおさめたことはご承知のとおりです。
 北海道出身の日本人が国際旅団に参加していたこと、その戦死に際して2つの追悼詩が国際旅団の機関紙に掲げられたことを知って、同じ日本人として何だか誇らしく思いました。

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トラウマの心理学

著者:小西聖子、出版社:NHKライブラリー
 PTSDとかトラウマという言葉がやっと分かりかけてきました。殺人事件の遺族について、他人(ひと)と話す気になれるまで早くて半年から1年ほどかかるそうです。本当にそうだろうな、と思います。
 幽体離脱ということが紹介されています。たとえば強姦されている被害者が強姦されている自分を上から見ている体験をするというのです。上から見ている自分は強姦されている自分の苦痛を感じることはありません。そういう「感覚」が起き、苦痛を回避するのです。自分では対処できないような苦痛を強いられたとき、そのような事態を変えることができないのなら、自分の側を変えて精神を守ろうという、人間が自分を守る働きのひとつなのです。
 PTSDには薬物治療も有効で、SSRIという、脳内のセロトニンの再吸収を抑制する薬があり、副作用も少ないそうです。精神療法(セラピー)のひとつにEMDRという眼球を左右にリズミカルに動かすことで感情の処理過程を促進し、トラウマティックな記憶に伴う苦痛な感情を脱感作させるものがあることを初めて知りました。
 また、セラピストは、意欲的にやろうとする人ほどバーンアウト(燃えつき症候群)しやすく、3年ないし5年のうちに大半がバーンアウトを体験するそうです。それだけ加害者を社会復帰させる仕事は難しいというわけです。

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クライマーズ・ハイ

著者:横山秀夫、出版社:文芸春秋
 面白い。これぞ小説の醍醐味だ。読みはじめるや否や、すぐ地方紙の社会部記者になったかのように、日航機墜落事故を追う重苦しい雰囲気に浸ることができた。
 1985年8月。いったい、あのとき自分は何をしていたのか、今ではもう思い出せない。もちろん福岡で弁護士をしていて、ときどき飛行機で上京していた。だから、大阪行きの飛行機が落ちたことを知って、ヒヤッとしたことを覚えている。でも、相変わらず飛行機には乗っている・・・。
 地方新聞の内部の葛藤が描かれ、スクープ合戦と販売部門との対立抗争が見事なまでに生々しく暴かれる。日航機事故という大惨事を売りものにしようとするジャーナリズムの限界を知り、苦悩する記者魂にぐいぐいひきこまれていく。記者の生き甲斐とは何なのか。

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シンポジウム・三角縁神獣鏡

出版社:学生社
 景初3年6月に卑弥呼の使いが魏の帯方郡に到着して朝見を願い出た。帯方郡では役人を同行させて都の洛陽に出かける。景初4年、卑弥呼は朝貢し、親魏倭王に封ぜられ、銅鏡百枚を授けられる。いま 日本各地に出土し、中国本土には出土しない三角縁神獣鏡が、その「銅鏡百枚」なのか、長年論争されている。中国でつくられた、いや日本でつくられた、中国の工人が日本でつくったもの、いくつもの説があり、まだ決着がついていない。
 この本は、鏡の部分を拡大して、その違いを説明しながら、論点を整理していて、大変勉強になった。

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ベトナム症候群

著者:松岡完、出版社:中公新書
 アメリカは1975年のベトナム撤退に至るベトナム戦争での苦い敗戦(戦死者5万8千人)の後遺症を今に引きずっていると言われています。
 クリントンもブッシュも団塊の世代ですが、いずれもベトナム戦争をうまく逃れています。このこと自体がアメリカでは強く批判されてきました。
 アメリカで軍隊は大衆の支持を受けている。しかし、同時に反軍感情もアメリカの伝統である。アメリカ軍将校に対する国民の評価は銀行強盗よりましという程度だった。この本にはそう書かれています。うひゃー、そうだったのか・・・。
 ベトナム戦争への徴兵に従わなかった者は57万人、うち起訴された者は2万5000人、有罪判決を受けた者は9000人。実際に処罰されたのは3000人。そんなに徴兵逃れした者がいたのか・・・。豊かな家庭の子どもほど戦場に行かずにすんだんだ・・・。
 戦争体験のない者ほど好戦的だというのは本当のように思います。イラク戦争のときもそうでした。日本でも、自民党の主戦論者は40代の若手に多く、かえって戦争体験のある後藤田氏や野中氏は平和憲法を忘れるなと叫んでいます。
 イラクに自衛隊を派遣して、イラクの人々を殺したり、日本人が殺されたりする危険が迫っています。なんとかしてやめさせたいと歯ぎしりする思いです。

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江戸の旗本事典

著者:小川恭一、出版社:講談社文庫
 著者は有名な江戸研究家の三田村鳶魚の最後の弟子です。ですから、江戸時代の実相がことこまかに紹介されています。なるほど、なるほど、とうなずくほかありません。
 「丈夫届」というものを初めて知りました。出生届のようなものですが、江戸時代は、幼児の死亡率が高かったので、すぐには幕府に出生を届けず、何年かたって丈夫に生長しているということで届けたというのです。しかも、そのとき「公年」といって、本当の年齢(とし)よりも5歳ほど年長に届け出ていたのです。それは、当主が17歳未満で死ぬと養子が許されずに絶家となるから、その危険を避けるためでした。
 もうひとつ。武家社会のいじめにあった被害者が殿中で刀を抜いて3人を殺し、2人に傷を負わせました。ところが、いじめの張本人は無傷で逃げおおせてしまいました(あとで、御役ご免の処分は受けています)。旗本8万騎といっても、実数は5千人ほどだったことなど、江戸時代の一面をよく知ることのできる便利な本です。

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伝記・正岡子規

出版:松山市教育委員会
 秋晴れのさわやかな日、久しぶりに松山城にのぼりました。リフトに揺られ、心地よい秋風を全身に受けとめ、下界をはるかに見おろし、しばし憂き世の些事を忘れました。
 道後温泉の一角にある子規の半生に触れることができました。子規がベースボールを愛好していたこと(最近、野球の殿堂に飾られたとのこと)、東大予備科に入り、そこで知りあった夏目漱石と同じ家に下宿していたことも初めて知りました。
 15歳で野心に燃えて上京した子規です。私も18歳のとき、大いなる期待に胸をふくらまして上京しました。残念なことに、たちまち巨大都市・東京には幻滅させられてしまいましたが・・・。子規は病気とたたかいながら、俳句そして短歌の革新を目ざしました。その感覚の鋭さと命をかけた努力ぶりには頭が下がります。春や昔15万石の城下かな

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安政五年の大脱走

著者:五十嵐貴久、出版社:幻冬舎
 井伊直弼が登場します。横恋慕した姫が諾と言わないので、山頂に閉じこめてしまうのです。そこで、津和野藩士が不可能と思われた脱走を試みるというストーリーです。
 まさか、という展開が最後まで息をつかせません。スティーブ・マックイーンの『大脱走』を超えるとオビにあります。そこまでは言えませんが、たしかに、この先どうなるのか、ハラハラドキドキさせられることは間違いありません。秋の夜長の気分転換にふさわしい本のひとつです。

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10年後の『結婚しないかもしれない症候群』

著者:谷村志穂、出版社:草思社
 女性はみな本当にたくましくなった。何にも頼らず、当然のように一人で歩き出し、人と出会い、愛しあう。男も、もはや自分でお茶もいれられないなんていったら生きていけない。
 20代後半の女性の未婚率は、福岡県は全国4位(65.3%)で全国平均54.0を上まわっている。
 この本を読みながら、女と男の出会いはたたかいであるという著者の言葉が素直に心にはいってきました。まことに縁は異なものです。
 あなたの10年後はどうなっているのか、たまに立ちどまって考えてみる。また、10年前をふり返ってみるのもいいものですね。さて、私の10年前は、いったい何をしていたのでしょう・・・?

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隠された証言

著者:藤田日出男、出版社:新潮社
 1985年8月12日に起きた日航123便の墜落事故について、改めて疑問を投げかけた本です。2つ問題があります。1つは、墜落直後には、助かった4人以外にも何人もの生存者がいたのに16時間も放置されてしまったのです。夜明け前に墜落現場に救援隊員を降下させることも可能だったのに、それもなされていません。民間人の方が早く現場に到着しているのです。これらはアメリカ軍と自衛隊が作為的に妨害工作した可能性をたしかに推測させます。
 もう1つは、後部の隔壁が破壊したため垂直尾翼が吹き飛んだとされている事故原因が本当なのかという点です。客室乗務員だった落合さんの証言は、それに矛盾することが明らかにされています。しかも、垂直尾翼の大半が海中に落下しているのに、それを引き上げることが早々と断念され、決定的な証拠が見つからないことになってしまっています。
 あの18年前の大事故の教訓がいま本当に生かされているのか、改めて心配になってくる本です。飛行機に何百万人もの日本人が乗っているわけですから、政府は疑惑にこたえ、真相を究明して国民に公表すべきだと思います。
 『クライマーズ・ハイ』を読んで当時の状況をたどったばかりでしたが、あわせて『沈まぬ太陽』を読んだときの心の震えるような感動も思い出しました。

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さらば外務省

著者:天木直人、出版社:講談社
 団塊世代のキャリア外交官が、日本の対米追従外交を痛烈に批判した本。一部に同意できないところもあったが、多くに共感を覚えた。とくに同じ団塊世代のキャリア官僚のなかに、これだけ気骨のある人物がいたことに深い感銘を覚えた。著者は、国連決議なしの対イラク攻撃は何があっても阻止すべきだという次のような意見具申を外務大臣あてに公電で打った。日本の外交史上の汚点として残る小泉外交の誤りは、国際社会を無視して一方的にイラク攻撃に踏み切った米国を、胸を張って真っ先に支持したことである。
 外務省の米国崇拝、盲従の外交が果たして、長い目で見て本当に国益にかなうものなのかどうか。再考を迫られている時期にきているのは間違いない。にもかかわらず外務省の現実は、もはや「追従」を通り越して、米国は絶対視、神聖視される対象にさえなりつつある。著者のこの指摘に私はまったく同感だ。ところが、先日、聞いた話によると、駐フランス日本大使は訪仏した日本の国会議員に対して次のように発言したという。「フランスは外交の素人なので困る。外交の玄人だったら、アメリカに最後までは反対しないものだ。はじめのうち反対するそぶりを見せても、結局は賛成するのが外交のプロなんだ」。これに対して、その国会議員が「そうはいっても、フランスの国民の大半は政府を支持しているじゃないの?」と反問したところ、その大使は「素人は、素人を支持するものだ」と言い放ったという。本当に、いつまで日本はアメリカの言いなりになっているのだろうか・・・?

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ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?

著者:アレン・ネルソン、出版社:講談社
 子ども向きの本ですが、大人が読んでも感動します。
 ニューヨークのハーレム(スラム街)で生まれ育ち、海兵隊に入ってベトナム戦争に従軍し、そこでベトナム人を殺します。除隊後、ニューヨークに戻って、ホームレスの生活を送っているとき、同級生に出会って自分を取り戻すチャンスに恵まれます。小学校4年生に向かって、ベトナムでの自分の体験を心を開いて語ったのです。海兵隊員になるというのは、戦場で、おそれることなく、上官に言われるままに人を殺す人間になるということ。兵士は考えてはいけない。考えるのは上官の仕事。
 確実に命中させ、確実に敵の戦闘能力をうばい、死にいたらしめるためには下腹部を狙え。そこが人間のからだでもっとも大きな部分だから。下腹部には一発でなく、何発も弾丸を撃ちこむ。本当の戦争とは、ただひたすら歩くこと。自分の体重よりも重い(70キロ)荷物を背負い、熱帯のジャングルの中を気絶しそうになるまで歩くこと。戦い、殺し、生きのびるためには、死体を見て何かを感じてはならない。死体を探すには注意深く耳をすます。何百匹、何千匹のハエの羽音が聞こえてくる。臭覚に全神経を集中させる。死体特有の甘い臭いがただよっているのが分かる。ネルソンさんは、人間性を取り戻すために大変な年月をかけています。本当に戦争とは、むごいものです。

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男はたのしく、たんこたろ弁護士

著者:角胴立身、出版社:自費出版
 今も田川市で弁護士として元気に活躍しておられる角銅弁護士は、生粋の川筋男です。秋田鉱山専門学校(今の秋田大学鉱山学部)で学び、古河鉱業大峰鉱業所に働くようになりました。ところが、1957年(昭和32年)の労働争議に直面し、折から労働組合側の弁護士として応援に駆けつけた諫山博弁護士の颯爽とした姿に憧れて転身(転向ではありません)を決意したのです。まったく畑違いの分野に頭をつっこんだのですが、ダットサンと愛称される我妻栄の民法教科書を19回読み通して、わずか3年で合格を果たしました。たいした集中力です。1965年、憧れの諫山弁護士のもとで弁護士としてスタートし、やがて筑豊地域で活動するようになりました。炭鉱災害の事件やカネミ油症事件のほか、数多くの事件を手がけてこられました。
 その豪放磊落なお人柄が、この本にはよくあらわれて、とても楽しい本になっています。(ご注文は角銅法律事務所 0947−42−2266まで)。

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韓国社会の歴史

著者:韓永愚、出版社:明石書店
 1997年に初版が出て13回増刷、5万部も出版されたという最新の韓国通史。700頁もある本格的な歴史書でずしりと重い。継志述事、東道西器、旧本新参。背山臨水。法古主義、法古創新。いずれも、私には目新しい言葉だった。
 昔、高句麗など三国では、合議制(合座制)で政治が行われていた。日本では、そのようなことを聞いた覚えがない。もちろん庶民の参加はなく、貴族民主主義という限界はあった。九州では加耶人が、また畿内では百済系統の韓国人が天皇家を形成し、日本の歴史を主導していた。三国の人々が日本に帰化したというのは誤りである、と述べられている。後段については「帰化」という言葉が誤解を招きやすいということで、日本でも最近は「渡来」という用語に変わっている。日本の天皇家に韓国渡来の人々の血が入っていることは日本の学会でも定説となっている。たとえば、桓武天皇の母親は韓国渡来の人である。
 ただ、万葉集の作者の半分が韓国系だと紹介されているが、この点は私も確証がない。
 豊臣秀吉による朝鮮出兵を韓国では壬辰倭乱( 1592〜1598)という。これによって朝鮮半島の国土は荒廃し、人口は150万人にまで減ってしまった。捕虜数万人が長崎のポルトガル商人によってヨーロッパなどへ奴隷として売り渡されてもいる。韓国を勝利に導いた英雄である李舜臣について、「日本スパイの奸計による謀略のために罷免された」という記述があるのには驚かされた。本当にそんな事実があったのだろうか?
 日本が韓国を併合してしまった乙己条約について、皇帝の署名・捺印がなかったという指摘があり、無法な日本の手口を再認識させられて恥ずかしい。さらに、土地調査と称して無申告の土地を奪って日本の所有としていったが、このことによって人々が飢えに苦しみ、日本へ自主的に渡り、また強制連行につながっていった。日本の責任が重大であることを痛感する。
 それにしても、韓国人の朋党対立(たとえば西人と東人、北人と南人。変法開化派と衛正斥邪派)の激しさは日本人の私たちの想像を超えるものがあるように思えてならない。

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大統領の秘密の娘

著者:バーバラ・チェイス・リボウ、出版社:作品社
 トーマス・ジェファーソンといえば、アメリカの格調高い独立宣言を起草した大統領。そのジェファーソンには黒人女性に生ませた7人の子どもたちがいた。それは異人種混交として処罰されるべき行為だった。
 1997年にスティーヴン・スピルバーグ監督は『アミスタッド』という素晴らしい映画をつくった。奴隷運搬船アミスタッドで発生したアフリカ人たちの反乱を当時のアダムズ大統領がどう扱ったかを描いたもので、息づまる展開にドキドキさせられた。この映画について、この本の著者は、自分の本の盗作だとして訴えを起こした(後で和解が成立)。
 そこで、この本の内容を紹介したい。といっても、2段組みで600頁という大作。要するに、ジェファーソンの娘ハリエットがどのようにして白人世界へ逃亡し、そこで奴隷解放のためにいかに奮闘したかという展開なのだが、途中で南北戦争がはさまっているため、劇的な物語となっている。
 ジェファーソンは39歳で妻と死別し、独身を通したため、黒人女性と同棲することに今日の考えからは何の問題もないし、同じ町に住む人々にとっても公然の秘密だった。しかし、アメリカ大統領がそうであってよいのかというマスコミの攻撃には、それでは耐えられない。ジェファーソンは一言も弁明しなかったという。といっても、ジェファーソンは遺言で奴隷の身から全員を解放すると宣言できたはずなのに、それをしていない。自分のかかえていた借金の支払いのために、子どもを競売にかけることも認めた。えっ、あの独立宣言はいったいどこにいったの?
 いろいろ考えさせられる長編小説だった。

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自分の時間

著者:アーノルド・ベネット、出版社:三笠書房
 1日24時間でどう生きるか。こんなサブタイトルがついています。そうです。時間は何もしなくても過ぎていきます。団塊世代の私にとって、学生時代はもう30年以上も前のこと。今や定年後をどう過ごすのかにみんなの関心が集まっています。企業戦士と呼ばれ、仕事人間として24時間を仕事に、そして会社(官庁)にささげてきて、今や、そこから放り出されようとしているのです。職業としての仕事以外に何かをやりたいという欲求は、ある程度精神的に成熟した人たちにとって共通するものである。書物の助けなくして、何かを正確に学ぶことはできない。人生とは、すなわち好奇心である。知識欲というのは、知識が増えれば増えるほど大きくなっていくものである。
 習慣を変えるには、なんらかの犠牲と、強固な意志の力が必要だ。私はテレビを見ませんし、一切の見るスポーツには縁がありません。芸能人の動向にも関心がありませんし、週刊誌もマンガ本も原則として読みません。カラオケも夜の二次会も時間のムダとしか思えないので行きません。もちろん、ゴルフもお断りです。お金を貯めているからではないのです。すべては自分の時間を確保するためです。本を読み、モノを書くには、時間がいくらあっても足りません。考える時間が必要なのです。ダラダラ会議のときには、黙って自分の仕事に没頭します。もちろん、ときどきは、無為に流れる時間も必要です。今日も、見晴らしのいい山頂で、寝ころがって雲の流れていくのをじっと眺めていました。50代も半ばになりかかろうとしている今、自分の時間はかけがえのない貴重な宝物です。

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窒息するオフィス

著者:ジル・A・フレイン、出版社:岩波書店
 アメリカの企業はうまくいっているのか、ホワイトカラーをはじめ労働者はゆとりある生活をエンジョイしているのか。日本はひどいけど、アメリカはバラ色?いえいえ、決してそんなことはありません。
 1990年代にアメリカのホワイトカラーの職場は雇用が減らされ、仕事がきつくなり、給料や手当が下がり、休暇が減ってしまいました。休日出勤や在宅残業が増え、長期の休暇旅行は激減し、短い週末旅行が主流になっている。ホワイトカラーは、IT化によって夜も週末も休暇旅行中も、年中無休で週7日、24時間の待機(オンコール)状態にある。 オフィスの仕事もすべて入力操作が特別なソフトで監視され、家庭にもち帰らざるをえないほどの仕事量の多さになりつつあるプレッシャーと、いつ解雇されるか、いつ派遣と置きかえられるか分からない不安のなかで強いストレスをかかえ、過労死に至るような健康障害をもつホワイトカラーも少なくない。
 アメリカの企業は、人件費の抑制のため、非正規雇用の比率を高め、今では10%ほどになっている。えっ、そうなの・・・?その詳しい内容は、本書を読んでいただくしかありません。

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親指はなぜ太いのか

著者:島泰三、出版社:中公新書
 「直立二足歩行の起源に迫る」というサブタイトルがついています。「スリリングな知の冒険が始まる」とあるとおり、私は「へー、そうなんだ」と何度も知的刺激を受けてしまいました。
 手のひらを見つめてみましょう。親指だけ少し離れて、向きが違います。短くて太い点はニホンザルやチンパンジー、ゴリラと同じです。なぜヒトの親指はこうなっているのか。著者はアフリカのジャングルそしてマダガスカルへ出かけ、その謎を実地に探ります。結論は?
 ヒトは、サバンナに無数にある骨を食べることで生きのびた。骨髄は脂肪の塊である。しかし、これを食べるためには叩き割る必要がある。そのために石を握って骨を砕く。太い親指は、石を握るためのものだった。
 マダガスカルにしかいないアイアイは、手の中指が異常に細くなっています。なぜか?それは、堅い種子の中味をかき出すためのものなのです。アンワンティボやポットーというアフリカの熱帯雨林に住むサルの手は、人差し指も中指も非常に短く、単なる突起でしかありません。これはケムシを常食とするため、ケムシの毛をこそぎとるのに適したように指が変化したのです。
 すべて生き物は主食を食べるのにあわせて手と指が変化しているということを明らかにしたこの本は、これまでと違った角度から、サルとヒトとの共通性をも明らかにしています。

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静かなる戦争

著者:デービット・ハルバースタム、出版社:PHP
 レーガン・ブッシュ・クリントン政権の内幕を情景描写、人物評をまじえて具体的に明らかにした本。
 レーガンは、複雑で鋭敏な思考、瑣末な情報や逸話の正確な記憶力をほとんどもっていなかった。レーガンの知っていたのはほんのわずかだった。しかし、彼の強みは、そのわずかなことに完全に忠実で、その正しさを微塵も疑わなかった。「小さな政府がよい」「政府は、できる限り個人の問題に干渉すべきでない」「政府の干渉がなければ、アメリカは再び偉大な国になれる」と固く信じていた。暗い時代だったから、自信にみちあふれたレーガンが歓迎された。
 ブッシュは湾岸戦争を数日間で圧倒的に勝ち90%の支持率を得たが、経済政策で国民の支持を失った。「謙虚」なブッシュは、スピーチ・ライターのつくった演説原稿に「私」という一人称単数を使うことを嫌がった。レーガンのまねをしてレーガンとはりあおうものなら、最悪の事態になりかねないことを十分承知していた。あくまでも自分らしくふるまおうとした。
 クリントンは速読が得意で、口頭の報告よりも、自分で書類に目を通そうとする。
 その育った家庭はアルコール中毒の義父のために崩壊寸前だったため、クリントンは争いのない「崩壊家庭」の緊張を和らげる方法を学んでいた。だから、同じような状況にあった民主党内のゴタゴタをまとめるのも容易だった。
 クリントンは、不倫問題などでマスコミに大いに叩かれたが、打たれ強かった。ただし、泣き言ばかりいう人間ではあった。ヒラリーも朝食のとき、マスコミの批判にことごとく反応してクリントンをいらだたせた。
 アメリカのマスコミはニュースキャスターがスターとなり、年俸800万ドルという、とんでもない高給とりになった。そして、ボスニアとかソマリアとか、国外のことはあまり取りあげず、娯楽と「内向き志向」になってしまった。
 アメリカの支配層の実像が容赦なく暴かれていくところは小気味がいい。日本には類書がないように思う。それにしても、こんなアメリカに日本がいつまでも言いなりになっていていいとは、とても思えない・・・。

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ヴァレンシュタイン

著者:シラー、出版社:岩波文庫
 ベートーベンの第9交響曲の歓喜の歌の作詞者がシラーだとういことは知らなかった。ゲーテと同時代(18世紀)の人。17世紀半ばの30年戦争のときに起きた、皇帝軍の有力将軍の反乱をテーマとする歴史悲劇。さすがシラー、一気に読ませる。

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北島亭のフランス料理

著者:大本幸子、出版社:NHK出版
 オーナーシェフは1951年に筑後市で生まれた。高校生のころは札付きの不良学生だったという。それがロイヤルに入り、フランスにも渡って料理人として修業を積む。この本は朝7時からの「北島亭」の1日を厨房に入って追う。しかし、シェフは朝7時に店にはいない。弟子たちに働かせてシェフはまだ寝ている。もちろん、そんなことはない。シェフは朝7時には築地の魚市場に自ら買い出しに出かけている。その日の新鮮な食材を見て料理を考え、素材を生かす工夫をこらす。肉は芝浦の食肉市場で仕入れる。
 厨房の料理長の主たる任務は、全体の動きを把握して進行を指揮すること、出来上がる料理の味を確認すること、盛り付けを確認することである。プロにしか出せない味、食通をうならせる、バラ色の極上ステーキ、300グラム。そんな究極の味が出来上がる過程が刻々と紹介されていく。あー、こんな店で極上の味を堪能してみたい・・・。思わずツバをゴクリと飲みこんでしまった。そんな美味しい本だ。

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99歳まで生きたあかんぼう

著者:辻仁成、出版社:集英社
 知人のNAOMIさんから面白いよと奨められて読んだ本。たしかに頁をくるのがもどかしいほど、ぐいぐいと魅きつけられて読んでいった。1人の男が苦労してレストランのシェフとして成功する。しかし、慢心があれば逆境にも落ちこむ。それでも、さらに努力して乗りこえる。料理が国王の前に次々に出されていった。ヒラメのカルパッチョはオリーブオイルと塩がかかっているだけだが絶品だった。焼き蛤は殻ごと炭火で焼いたために、真っ黒な塊で出てきた。白いお皿に真っ黒な物体がごろごろ。国王に対して失礼ではないのか、と政府の人間は顔を強張らせた。ところが、殻を開けた途端、会場に潮の香りが立ち込めた。そして中からは生まれたてのあかんぼうのような蛤の身が現れたのだ。汁を一口、蛤をつるり、国王は思わず、唸り声をあげた。おいしいものを知り尽くした国王だけに、本物のおいしさがわかるのだ。
 スズキのポワレは油を使わず、鉄板の上でかりかりになるまで皮を焼いた。しかも身は引っ繰り返し弱火でゆっくりじっくり火を通しただけの究極の品。ソースなど使わない。ちょっと塩がまぶされただけだったが、これがうまい!そして最後のメイン料理に一同、目が点になる。農園でとれた旬の野菜の温かいサラダだ。国王の口の中で野菜たちが歌を歌う。素材の良さを生かした究極の味を見事に実現し、大勢の子や孫たちに囲まれて99歳で大往生をとげる。読んでいて、心をほのぼのと温かくしてくれるいい本だった。

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太りゆく人類

著者:エレン・ラペル・シェル、出版社:早川書房
 肥満を解消すべく努力している。9月からの2ヶ月で、なんとか3キロの減量に成功した。といっても油断すると、すぐに元に戻ってしまう。私のダイエット法は、事務員さんのおすすめによるもので、朝9時から昼12時までは飲まず食わずの絶食。相談を受けたり、打ち合わせするとき、ノドが乾くので、しきりにお茶を飲んでいたが、今はそれを絶った。朝食はリンゴとニンジンのミックスジュース。そして、青汁の牛乳とまぜて飲む。臭味はない。そのあと、ショウガ紅茶を一杯だけ飲む。昼と夜は普通に食事を摂る。当面の目標達成まで、あと2キロだ。なんとしてもやり遂げたい。食事の量を減らし、運動の量を増やす努力を続けている。
 肥満は、アメリカの公衆衛生を危機にさらす要因の第2位(ナンバーワンはタバコ)で、年間30万人の生命の損失となっている。大人の34%が過体重で、27%が肥満。子どもの過体重・肥満は、20年間に2倍以上となった。アメリカ人は、年間330億ドルをダイエット製品や痩身法に費やしている。ところが、抗肥満薬の効果には疑問があり、製薬会社にもうけさせているだけではないのか・・・。「ノー・シンク・フーズ」(何も考えない食べもの)とは、ファースト・フードと同じもの。ビタミン、ミネラル、繊維質が少なく、かわりに砂糖、脂肪、カロリーがたっぷり入っている。脂肪が濃厚に含まれている高カロリーの食品は、満腹感を感知する体内のシステムを鈍らせ、食欲をコントロールできにくくする。
 ファーストフード店のハンバーガーの肉は、2割が脂肪、2割がタンパク質、6割が水分。1日に4時間以上テレビを見る子どもの18%が肥満であり、テレビを見ながら子どもは大量に食べ、エネルギーを消費させない。そして、味覚の複雑さより、甘さにだけ頼る食品に舌が慣れさせられる。ヒトが賢く生きていくためには、大きな障害がいくつも待ちかまえているというわけだ。

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内閣政治と大蔵省支配

著者:牧原出、出版社:中公叢書
 東京で1年間、中央官僚と身近に接する機会があったので、官僚の優秀さとモーレツな仕事ぶりを再認識させられた。優秀というのは、何事によらず、ともかく途切れることなく「理路整然」と話を展開していき、それがペーパーになって直ちにあらわれるということ、モーレツさという点では「夜、暗いうちに帰宅したい」という言葉にあるように、徹夜が何日も続いてなお仕事をやり遂げるということ。私は、どちらもできないし、やりたくもない。
 司法制度を改革するために審議会が設置され、その意見書にもとづいて目下、司法制度の改革がすすめられている。この本を読んで、このような審議会を通じて時の懸案を処理するスタイルを始めたのは中曽根康弘元首相だということを知った。85歳になってなお議席に恋々としたのは老害というしかない。それはともかく、審議会方式は「大統領的首相」を目ざしたものだという。国民一般から意見を聞くという姿勢をとり、また、国民の反応を見るために審議会が必要だった、という。そして、政治家への働きかけ、場合によっては、その操作が官僚にとって最大の課題となる。国会が始まると、官僚は全力投球で国会と議員対策にあたる。それこそ徹夜で作業をすすめる。
 この本ではもうひとつ、「官房型官僚」と「原局型官僚」という耳なれない言葉を紹介しつつ、官僚の世界の「内部抗争」を分析している。そこが面白い。たとえば、出向させられた官僚は、出向先の意向をより重視することもある。そのような苦労のなかで、所属官庁の意見と利害を超えた広い(高い)調整的な視野を身につけていく。これが「官房型官僚」である。もう一方では、もともと、あまり出向しないし、仮に出向しても、あくまで出向元の官庁の意向を体現する官僚がいる。両方の官庁のバランスをうまく取りながら、全体として官僚の世界が実権を喪わないように結束する。キャリア官僚の存在と処遇をめぐる議論は、容易に決着のつかない難問だ。

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