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あさかぜ基金だより・最終号~大変お世話になりました!~

カテゴリー:月報記事

弁護士法人あさかぜ基金法律事務所・元所員 古賀 祥多(69期)

今回は、あさかぜ事務所の元所員である私より、「あさかぜ基金だより」最終号をお届けします。

さようなら、あさかぜ

平成20(2008)年9月、九弁連は、管内の弁護士過疎対策のため、過疎地赴任者を養成するための事務所として、「弁護士法人あさかぜ基金法律事務所」を設立しました。
以来、あさかぜ事務所は、17年以上もの間、弁護士過疎対策に取り組んできました。また、私たちあさかぜ所員自身も、長年、九弁連管内の司法アクセスを改善すべく頑張りました。
あさかぜ事務所の設立後、第1号所員の井口夏貴会員の入所をはじめ、全国各地からあさかぜ事務所に入所し、のべ29名もの所員が九弁連管内の弁護士過疎地域に赴任しました。卒業生のなかには、ひまわり基金法律事務所、法テラス7号事務所に赴任する所員や日弁連の過疎偏在対策の経済的支援制度を用いて独立開業する所員もいました。私も、平成28(2016)年12月に入所したあと、2年の養成を経て、壱岐に赴任しました。
所員の赴任先をみると、あさかぜ事務所が、九弁連管内の弁護士過疎解消に貢献できたと実感することができますし、自負もしています。
しかし、昨今の新人弁護士登録の東京一極集中の傾向から、所員の確保が困難となり、令和8(2026)年1月末をもってやむなく閉鎖をすることになりました。

皆様、大変お世話になりました!

今振り返れば、あさかぜ事務所の存続は、経済的面で苦難の道でもありました。また、所員自体も、養成を受ける中で、さまざまな苦労・悩みを抱えました。それでも、なんとか17年以上もの間、事務所を存続させ、所員が九州各地の弁護士過疎地域で活躍する機会を得ることができたのは、ひとえに福岡県弁護士会の会員の皆様のご支援のおかげです。ご支援いただき、ありがとうございました。
とりわけ、弁護士法人あさかぜ基金法律事務所運営委員会からは、さまざまな形で事務所・所員をバックアップ・サポートしていただきました。まことにありがとうございました。
また、所員1名につき、3名から5名の指導担当弁護士にサポートしていただきました。指導担当弁護士を引き受けて下さった会員の皆様には、多忙ななか、ご指導・ご鞭撻いただき、まことにありがとうございました。
さらに、あさかぜ応援団として共同受任・事件紹介いただいた会員の皆様にも、OJTによる熱心なご指導・ご鞭撻をいただき、まことににありがとうございました。
今日まであさかぜ事務所が存続し、九弁連管内の弁護士過疎地域に弁護士を派遣することができたのは、皆様のご支援・ご声援、叱咤激励があってこそです。
なお、歴代あさかぜ事務所弁護士の至らない点(所員の至らない点について苦言をお受けしたこともありましたので、なかったとは言えません。)につきましては、所員一同を代表して深くお詫びします。

司法アクセスの維持・改善のために

あさかぜ卒業生としては、あさかぜ事務所の閉鎖は寂しい限りです。でも、感傷に浸る暇はありません。あさかぜ事務所が閉鎖した後も、弁護士過疎地域の司法アクセスの維持・改善のための活動(ひまわり基金法律事務所の所長弁護士を確保する活動)は続きます。
これまで、あさかぜ事務所が壱岐・対馬のひまわり基金法律事務所の所長弁護士の給源として機能してきました。そのあさかぜ事務所を閉鎖する以上、別の方法で、壱岐・対馬の所長を確保していかなければならないと強く感じています。それは、私が壱岐ひまわり基金法律事務所の所長弁護士として活動した経験から感じるものです。
私は、所長弁護士として壱岐の島で2年間生活をしました。壱岐に実際に住んだ身としては、島で法的なトラブルが生じたとき、もし島のなかに常駐の事務所がなかったならば、島の外に出てまで弁護士に相談しようとは思わないのではないか、と感じます。一島民としては、決して安くない船舶料金を払って、1日がかりで島を出て、わずかな時間の法律相談に行くことがどれだけ時間的・経済的に困難で、大変なのかを実感できるからです。そこに思いを致せば、やはり、壱岐の島に常駐型法律事務所はなくてはならない、と思います(この点は、日弁連公式YouTubeチャンネル内にある動画「ここに弁護士がいてよかった~長崎・壱岐編」(https://youtu.be/N7IQzS5fOP0?si=BGfbchBAl7RyBRkw)でもお話していますので、是非ともご視聴いただければ幸いです)。
むろん、オンライン技術が進歩していけば、もしかすると常駐型法律事務所がなくともリーガルサービスを受けられる社会、相談者が安心感を得ることができる社会が実現するかもしれません。ただ、今でも弁護士のことを「怖い」と思う市民の方々が、モニター越しで会話する弁護士を信頼し、安心することができるのか、という問題があると思います。また、デジタルデバイスを用いることができない方々にとっては、オンライン技術がいくら進歩したとしても、その恩恵を得られるわけではない、という問題もあると思います。その意味で、私は、オンライン技術が日々進歩している現在においてもなお、かの地に弁護士が常駐している必要があると確信しています。
あさかぜ事務所が閉鎖したとしても、そうした司法アクセスの維持・改善のあゆみは、止めるわけにはいかないと考えています。
今般、九弁連では、司法過疎対策として、あさかぜ事務所に代わる過疎地赴任者の養成制度を企画しています。新制度では、九弁連管内の特定の事務所に過疎地赴任者の養成を委託し、九弁連がそれを財政的に支援する制度を予定しています。このように、九弁連では、あさかぜ事務所の活動に変えて、司法アクセスの維持・改善に向けた取り組みを続けていくことになりましたので、この新制度が機能するように、微力ながらお手伝いするつもりです。
また、日弁連では、司法過疎対策の一環として、令和7(2025)年6月から、新たに弁護士登録後3年の実務経験を有する弁護士を対象に、赴任のための準備費用として、上限200万円を給付する「経験弁護士準備援助金」制度を設けました。この準備金制度は、ひまわり基金法律事務所における従前の年間所得720万円を補償する制度とは別個の制度であり、経験弁護士でもひまわり基金法律事務所の所長に手を上げやすくするために整備された制度です。
弁護士過疎地対策として、このような制度もありますので、この機に、ひまわり基金法律事務所に興味をお持ちいただき、是非とも、エントリーしていただければと思います。ご興味のある方・ご不明な点は、ご遠慮なく私にお尋ねください。
弁護士過疎地対策に、ご理解と変わらぬご支援・ご声援をお願いします。

これからもよろしく

「あさかぜ基金だより」はこれで終幕です。これまであさかぜ基金だよりをご覧いただきまして、ありがとうございました。
とはいえ、弁護士過疎問題や司法アクセスの改善のための活動を風化させないため、不定期に、弁護士過疎問題に関連した記事を投稿したいと考えています。面白い記事、皆様が興味をそそられるような記事にできれば良いなと思っていますので、掲載の折にはご一読いただければ幸いです。

「ウクライナが核をもっていれば、ロシアに侵攻されなかったのでは?」にどう答えるか ―講演会「核抑止について考える~核兵器廃絶に向けた議論のために~」のご報告-

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憲法委員会 委員 稲村 蓉子(63期)

核兵器廃絶を考える憲法講座

10月30日、市民とともに考える憲法講座第16弾として「核抑止について考える~核兵器廃絶に向けた議論のために~」の講演会を行いました。講師は長崎大学核兵器廃絶研究センターの副センター長である河合公明先生です。この講演は、本年12月の人権大会のプレシンポとして行われました。
平日夕方からの開催でしたが、会場56名、ZOOM 24名の参加者がありました。なかには、高校生、20代の参加者もいました。

核兵器とは何か、現在の核弾頭数

講演は、まず核兵器の説明から始まりました。核兵器とは、簡単に言えば核反応を利用した爆発装置であり、反応の結果、核分裂生成物(いわゆる核のゴミ)が多く出ます。従来の火薬による爆弾との違いは桁違いの破壊力であり、熱線・爆風・放射線という3つの特徴があります。放射線と放射性物質は、短期的には急性放射線障害(嘔吐、脱毛、下痢など)、中長期的には晩発性放射線障害(ガン、白血病など)を引き起こします。80年前の広島・長崎から現在まで、核兵器はその能力を大きくあげており、現在の爆発力は広島・長崎型の数倍から数十倍あります。さらに、最新鋭の能力として長距離を高速で飛ぶもの、ピンポイントで目標を狙うもの、地中深くを攻撃するものもあります。
2025年6月時点で世界には現役核弾頭数が9615あり、欧州から中東、南アジア、北東アジアまでかつてないほど通域的な範囲で核兵器の使用が懸念されています。

核兵器禁止条約の賛否の分かれ目

核兵器の禁止に関する条約(TPNW)は、2017年7月に採択、2021年1月に発効しました。締約国は74、署名国は95(2025年10月30日時点)となっています。この条約に対する評価は賛否に分かれています。
なぜ賛否がわかれるのか。その理由の1つは、「軍縮をすることが安全保障を促進するのか、それとも損なうのか」という問題に対する見解の相違があることによります。すなわち、軍縮をした結果かえって国家間の力の均衡を損ない、特定の国が武力行使を行う危険を増してしまうと考えるのか。軍縮をした結果、各国が武力行使の危険が減少したと考えて、自国の要求を武力行使によって解決するのを控えるのか、ということです。
理由の2つ目は、核兵器の「使用の威嚇」をめぐる対立です。冷戦期、核抑止政策が確立されました。核抑止政策とは、「自国は核兵器を使用すると相手国を脅す(使用の威嚇)ことによって相手国に核兵器使用をとどまらせる」というものです。しかし、TPNWは「核兵器の使用」「占有」のみならず「使用の威嚇」も禁止しました。そのため、核抑止政策をとっている国は、この条約に反対しています。
理由の3つ目は、核兵器の法的評価をめぐる対立です。国際人道法は兵器を規制していますが、一般的かつ抽象的な規定のため、どの兵器を禁止するか特定していません。国際上統一した見解がない以上、核兵器が適法な兵器であるかどうかについて各国家の見解によるしかなく、見解の差が、TPNWへの評価の違いにつながっています。

安全保障が先という考え方では、現状維持か軍備の増強を図るしかない

以上の評価の分岐点について、どのように考えるべきでしょうか。

まず、理由の1つ目「軍縮と安全保障」の問題について考えます。

非核兵器国の立場は、「核軍縮をするのは安全保障のため」です。一方、核兵器国の立場は、「核軍縮をするには安全保障が前提条件」というものです。核兵器国は「すべての国の安全保障が向上し減弱されない原則」(安全保障が弱まらない保証がない限り核軍縮交渉はできない)をとっています。核兵器国は核軍縮の文脈でこの原則を常に確認するため、核兵器不拡散条約での議論は停滞に陥ります。この、安全保障が先か軍縮が先かという論理はどのような帰結をもたらすでしょうか。歴史の教訓からいえば、過剰な軍備を放置した結果が第一次世界大戦につながったという反省があり、安全保障ができない限り軍縮ができないならば、少なくとも現状維持か、軍備の増強を図るしかありません。

核抑止が失敗したら核兵器は使われる

理由の2つ目「使用の威嚇」の問題については、核抑止をどう理解するかが関わってきます。核抑止とは、核兵器の「使用の可能性」による威嚇です。ここで日本政府の政策を確認すると、日本は、アメリカの保有する核兵器への依存は日本にとって必要との立場をとっています。日本政府は、核兵器を使用させないために核兵器が必要であり(核抑止)、そのために差しかけられたのが「核の傘」であると説明しています。これは核抑止の威嚇の効果を偏重する理解であるといえます。しかし、この日本の政策には、あるべき議論が抜け落ちています。一つは核兵器の使用に伴う問題の分析であり、二つは核兵器の使用から派生する法的、政治的問題の検討です。
前者の問題として、「核抑止が失敗した後、どうするのか」という問いがあります。この問への理論的な答えは核抑止論から出てきません。アメリカの著名な国際政治学者であり、核抑止の理論面の構築者の一人であるケネス・ウォルツは、抑止に失敗したときに国家は抑止の脅しを実行に移すべきかという問いは「愚問」だと述べました。読者は、「実行に移すべきか。すなわち核を使うべきか」という問いにどのような答えを思い浮かべたでしょうか。ケネス・ウォレツの回答は「使うべき」というものです。使わなければ有効な脅しにならないからです。つまり、核抑止の失敗は核兵器の使用を意味し、少なくとも一定程度の核攻撃の応酬が想定されるのです。核抑止の失敗という事態に対し、日本はどう対処するのでしょうか。この点、日本はアメリカの核兵器にどのような役割を想定しているのか、明らかではありません。

核兵器の非人道性は十分に検討されるべき

後者の問題は、使用に伴う国際法上の問題です。日本では、核兵器の廃絶という枠組みの範囲でしか議論がなく、使用に伴う国際法上の問題の分析が不十分でした。今、国際的には「核兵器の人道上の影響」が議論されており、前述したとおり2017年7月には国連の会議で核兵器禁止条約が採択されました。核軍縮を求める側から、主として核の使用に焦点をおいた問題提起がなされたという点に意義があります。世界では「核兵器の『非人道性』故に核兵器を『絶対悪』と評価する立場」と、「核兵器が存在する以上、核兵器を『必要悪』と評価する立場」とに分かれています。この議論は膠着していますが、核兵器の人道上の影響という論点は、今後、国際法上の問題となりうることから十分に検討されるべきです。

核兵器は国際人道法上違法な兵器といえる

理由の3つ目「核兵器の法的評価の問題」について論じます。国際人道法は武器兵器の利用を前提として、「区別原則(攻撃の対象は軍事目標に限定され、民間人や民用物は保護されなければならない)」「不必要な苦痛の禁止原則」をとっています。これは普遍的な規則であり、国家慣習法の侵すことのできない原則です。この2つの基本原則のもと、いずれかまたは両方に違反する性質を有するとみなされる兵器は禁止され、そうとみなされない兵器は規制を受けるにとどまります。TPNWは、核兵器は兵器として違法であり、使用禁止すべきと考えます。核保有国やその同盟国は、核兵器は違法ではなく、使用の方法が規制されるにとどまると考えます。さて、核兵器はこの2つの基本原則からみたとき、禁止または規制を受けるにとどまる兵器のいずれに分類されるでしょうか。1996年に国際司法裁判所が出した勧告的意見は、次のように指摘しました。「(限定的な核兵器の使用の問題に関して)小型で低出力の戦術核兵器の『クリーン』な使用が仮に可能だとして、その使用を正当化する状況がなにであるかを示している国は『皆無』」「そのような限定的な使用が、高出力の核兵器の『全面的な使用へとエスカレートする』傾向がないことを示した国は『皆無』」。つまり、核兵器国は、国際人道法の2つの基本原則から核兵器に向けられる問いに対して、答えないのです。核兵器国には説明責任があるといえます。

「責任ある核兵器の使用」は存在しない

以上を踏まえ、今後、核兵器廃絶に向けてどのように議論すべきでしょうか。2023年に開催された核軍縮に関するG7首脳広島ビジョンは、「核兵器が存在する限りにおいて『防衛目的のために役割を果たす』」旨の宣言を行いました。この宣言は、核軍縮を掲げながらも、「『防衛目的のため』に必要であれば、核兵器を使用する決意をもつ」、「G7の核保有国による核兵器の使用は『責任あるもの』として許される」という2つの点を表明しているようです。これは核廃絶に向けた議論として、正当なものでしょうか。考える材料として2つの見解を紹介します。核兵器の人道的影響に関する国際会議の議長総括は「いかなる国家または国際機関も、核兵器の爆発が直ちにもたらす人道上の緊急事態に適切に対応し、被害者に対して十分な救援を提供できるとは『考えにくい』」「そうした能力を確立しようとしても、それは『可能ではないかもしれない』」としています。また、2019年10月の核軍縮の実質的な進展のための賢人会議による「議長レポート」は、「核抑止あるいは拡大核抑止に依存する国は、核兵器や核抑止についての人道上の懸念を認識する必要がある」「核抑止が特定の環境における安定性を向上させる可能性はあるとしても、それが世界の安全保障にとって危険な基礎であり、したがって、すべての国はより良い長期的な解決策を模索すべきである」と述べました。「責任ある核兵器の使用」が果たして存在し得るのか、存在しないのであれば、それを前提とした議論はあり得ないのではないかが問われます。

「犠牲になるのは一般市民」であるという普遍的なメッセージを出し続ける

TPNWは、核兵器は決して使用されてはならず、使用されないための唯一の保障は「廃絶」であるとの理念に基づいています。TPNWは廃絶に向けた入り口です。もっとも、条約に参加しない国は拘束されないため、核兵器禁止条約を普遍化していくことが課題となっており、同条約を普遍化するためのウィーン行動計画では、市民や市民社会との協力が掲げられています。
現在、世界各地で国際法が繰り返し破られる現実を目の当たりにし、国際法は無意味ではないか、という疑念を持つ方もおられるでしょう。しかし、守られない法が悪いのでしょうか。そうではなく、「法を守れ」という声を高める必要があるのではないでしょうか。法が破られたとき、犠牲になるのは一般の市民だということは、過去の歴史から明白です。長崎の原爆投下を踏まえた現実主義(リアリズム)から、「武力紛争で苦しむのは誰か」という普遍的なメッセージを問い続けるべきです。核抑止論はリアリズムであるといわれますが、その実は、「自分が脅していれば相手は核を使わないであろう」という「願望」に依存するものにすぎません。相手が核を使わない保証はなく、核兵器が使用されれば市民に大きな犠牲が出ます。また、核に依存することの負の面は使用の場面だけの問題にとどまらず、核実験などのサイクルで多くの被害者を生み、環境汚染をもたらすということもあります。
核抑止論は、私たちを脅かすものではないでしょうか。核抑止に依存しない他国の犠牲の上に維持されているものではないでしょうか。だからこそ核抑止からの脱却を考えなければならないと考えます。
日本被団協がノーベル平和賞を受賞しました。授賞式のスピーチで、田中熙巳氏は「核兵器廃絶」と「戦争廃絶」の二重の課題を提示しました。また、スピーチの中では「国家補償」という言葉を2度使いました。国家補償は、国に戦争により生じた被害の補償をさせることを義務付けることにより、国が戦争を始めることを躊躇させる、戦争への抑止になるという考えに基づくものです。これは戦争抑止への重大な提言だと思います。
現在の国際社会は、戦争や核被害の現実への対応や制度が未整備です。被害の現実を出発点に規範の実装を設計する研究が必要とされています。

ウクライナが核を持てば、ロシアに侵攻されなかったのか

以上の河合先生の講演は、理解が難しいところもありました。しかし、参加者は最後まで熱心に聞き入りました。講演後には終了間際まで質問がいくつも出されましたが、その中から私が印象に残った質疑応答を一つ紹介します。
50代くらいの男性からの質問です。「私は核廃絶すべきとの思いを持っているが、ウクライナがロシアに侵攻された現実を前に、『ウクライナが核を持っていれば侵攻されなかった』との意見が出される。これをどう考えるべきだろうか」。河合先生の回答は、「ウクライナの人々からすれば、それはあり得た仮定である。しかし、あくまでも仮定に過ぎず、持っていても戦争があったかもしれない。また、核の問題について、ウクライナ・ロシアの二国家間の関係だけで捉えるべきではなく、一歩引いた視点も重要である。ウクライナが核を持てば、第三国にも影響を及ぼさざるを得ない。影響は、核使用に伴う放射性物質の汚染もあるし、政治的影響もある。その影響を論じること抜きに核を持つべきとの議論をすることはできない」というものでした。核兵器の問題を考えるときに、使用国・相手国という閉じた関係ではなく、一歩ひいた視点での見方をする必要もあるということに気付かされました。

核兵器廃絶に向けた着実な歩み

懇親会では、河合先生が、講演に劣らない熱量でお話をしてくださいました。その中で、河合先生は「核で脅しあう世界と、戦争をしないと決める世界と、どちらの世界に住みたいですか」と問いかけられました。もちろん後者の世界を望みます。河合先生は、国際法の既存の枠組みにのっとって核廃絶を実現させるという研究も進められているそうです。核廃絶に向けて、真摯な、そして着実な取り組みがなされていることに、大きな希望を感じました。

【筑後部会】ジュニアロースクール2025 in 筑後

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筑後部会法教育委員会 鍋島 典子(66期)

1 はじめに

2025年11月16日(日)、今年も筑後部会の会館でジュニアロースクールを開催しました。10年ほど前に始まった企画ですが毎年恒例になった感があり、ありがたいことに近年は応募者多数でお申し込みをお断りすることも増えてきました。
対象は筑後地域の中高生で、今年は30名超の生徒さんに参加していただきました。

2 今年の題材

今年は、殺人被告事件を題材に、犯人性を否認している被告人について、目撃証言の信用性が争点になっている事案を扱いました。台本のタイトルは、「家政婦は見た!…のかもしれない」です。まさに、家政婦のミタゾノならぬイタゾノさんが殺人現場を見ちゃったのかもしれない、という事件です。オマージュのオマージュです。
被告人は、妻を毒殺した疑いをかけられている夫で、その家の家政婦(イタゾノさん)が証人となって夫が妻のコップに毒薬を入れているような様子を見たという証言をします。
生徒たちは、模擬裁判をみながら、弁護人チーム、検察官チーム、裁判官チームに分かれて、それぞれの立場から裁判手続に取り組みます。弁護人チームには証人への反対尋問を、検察官チームには被告人への反対質問、裁判官チームには各補充質問を考えてもらい、実際に自分の言葉で質問をしてもらいます。そのうえで、論告、弁論、判決まで行ってもらいます。生徒は、3,4人で1つの班になり、これらの手続きは班でディスカッションをしながら、進めてもらいます。
証人の証言には、目撃した際の視認状況や目撃証言の動機など、その信用性に疑問を抱きうるような要素がちりばめられています。他方、被告人にも妻との関係性や当日の行動について疑わしい要素が散見されます。
そのなかで物事をどの方向から見るか、どのように考えることが論理的といえる、他者を説得するにはどうすればよいかなど、生徒たちには、裁判の登場人物になったような気持ちで取り組んでもらいました。

3 強力なサポート体制

そして、JLSin筑後では、毎年、法教育委員会の委員に限らず多くの筑後部会の先生にご協力を頂いています。今年は、15人の先生方に手伝っていただきました。
生徒たちが刑事手続を見たり、班に分かれてディスカッションをする際、各班にはチューター役の弁護士1人についてもらい、議論のヒントや手続きの正しい理解をサポートしてもらいました。模擬裁判の役者も、弁護士が務めます。
どの先生方も、JLSの季節が近づき、お電話などで「今年も・・・」とご協力のお願いをすると快く引き受けてくださいます。また、初めてご協力をお願いする先生も、自分で大丈夫ですかと謙遜されながらも快諾いただきました。筑後部会っていいな、と感じる一幕です。
今年協力頂いた先生に参加したコメントを頂きました。

▪山口高志郎先生(71期・検察官チーム担当)

「3つの検察官チームがありましたが、そのうちの1つのチームのサポート役を務めました。
おそらく3人とも中学2年生で、女子中学生が2名、男子中学生が1名でした。
検察官役として、中学生なりに、今回の事案を推理して、検察側で立案すべきストーリーを考えて、証拠状況や主張を立論してくれました。
新鮮な気持ちでジュニアロースクールに取り組む中学生の皆さん。
中学生に助言をすることを通じて、新鮮な気持ちを取り戻す瞬間になりました。」

▪松﨑広太郎先生(66期・目撃証人イタゾノ役)

「毎年、証人や被告人の役をさせていただいておりますが、参加した中学生や、高校生から鋭い反対質問をいただき、きりきり舞いになっています。
今年だと、私が犯行を目撃した際、リビングルームの電気については点灯していたと主質問で語っていたのですが、「廊下の電気はついていたのですか」等といった反対質問がありました。
ほかにも、意見を押し付ける質問ではなく、目撃した際の状況に関する質問が多数飛んで、感心いたしました。
参加している中高生の話を聞いていると、法曹志望の子もいますし、今回の模擬裁判を見て法曹を志してくれる子もいるかもしれません。10年後、もし、今回の参加者の中から司法試験の合格者が出て「松﨑先生、あの時証人役をされていた方ですよね!私検察役でした!!」等と声をかけてくれることがあれば、こんなに素敵なことはないと思っております。
鍋島先生に恩を売ろうと思って始めた、被告人役、証人役でしたが、私自身、子供たちの触れ合いを毎年楽しみにしています。
金を残すは三流、名を残すは二流、人を残すは一流(故野村克也)ですから、子供に夢を与える仕事、子供の興味を引く仕事、子供の記憶に刻まれる仕事は積極的にやっていきたいと思います。」

普段、どろどろとした大人の紛争を扱うことが多い我々にとって、純粋で一生懸命な中高生の姿はとてもまぶしく清々しく感じるものです。

証人イタゾノさん役:松﨑広太郎先生
4 今回のJLSまとめ

参加生徒さんからは楽しかったという感想をたくさんいただき、単純に今年もやってよかったなと思うとともに、裁判手続きが学べてよかったとか、論の組み立て方を知れたとか、自分の意見を主張するのが楽しかったという感想ももらいました。
また、証言を怪しいと思ったけどそれを言語化するのが難しかったとか、分かりやすい弁論をするのが難しかったという言葉もあり、楽しいだけではない体験を与えられたことも、JLSの目的の達成だと思います。
来年もおそらく行います。(模擬裁判の題材、募集中です。お心当たりのある方はご連絡ください。)

弁護人役:渡部裕太郎先生

~裁判傍聴&弁護士との交流会~弁護士に会ってみよう!

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法科大学院運営協力委員会 委員 久芳 かずさ(75期)

1 イベント概要

このたび、高校生・大学生を主な対象とした進路啓発イベント「弁護士に会ってみよう」を実施しましたのでご報告させていただきます。
本イベントは、弁護士という職業や法曹の世界に関心を持つ学生を対象に、裁判傍聴や弁護士の仕事内容を直接伝えることで法曹志願者の拡大を図ることを目的としています。
中学生から大学生まで合計14名の学生と2名の保護者にご参加いただきました。
当日は、まず、弁護士引率のもと、裁判傍聴を行ない、傍聴後には、実際に傍聴した裁判について引率をした弁護士から解説を行っており、学生からは質問が飛び交っていました。
傍聴した裁判についての解説の後は、事前に募集をした質問に対して、弁護士3名を登壇者として、弁護士の仕事のやりがいや弁護士を目指したきっかけなどについてパネルディスカッション形式で説明が行われたりしました。
参加者は熱心に耳を傾け、時折うなずく姿も見られました。
説明の中では、やりがい以外にも苦労をすることや、当時の学生生活の様子の紹介もありました。
登壇した弁護士の経験に基づく具体的な話の中で、参加者には弁護士という職業をより身近に感じていただけたと思います。
当委員会は、今回のイベントを通じて、法曹への理解と法曹人口の増加に資する貴重な機会となったと考えています。
また、これからの未来ある学生に法曹に触れてもらう機会を提供できたという点は、法曹志望者の裾野を広げるという観点からも有意義な取り組みであったと考えています。

2 タイムスケジュール

当日は12時15分より受付を開始し、12時30分に開会挨拶と傍聴の際の注意点の説明が行われました。
続いて、裁判や弁護士の役割について理解を深めるためのDVDを視聴し、13時10分からは弁護士が同席する形での裁判傍聴を実施しています。
裁判所からご提供いただいたパンフレットを片手に傍聴することができましたので、裁判の仕組みをパンフレットで知り、実際の法廷の雰囲気に触れ、法廷で弁護士がどのように活動しているかを間近に見ることができる貴重な機会となりました。
傍聴後は会館に戻り、14時50分から「弁護士と話してみよう!」と題し、参加者が弁護士に自由に質問できる時間が設けられており、参加者は傍聴した裁判の内容について疑問点を解消できたのではないかと思います。
15時20分からは「弁護士に聞いてみよう!」と題する講演が行われ、弁護士の業務内容や、弁護士になるまでの道のり、日々の仕事の中で感じる魅力等について、現役弁護士が自らの経験を交えて語りました。
最後に16時30分に閉会挨拶が行われ、全行程を終了しました。

3 裁判傍聴について

今回、法曹の仕事をより深く理解する機会として、刑事事件と民事事件の法廷傍聴を行いました。普段はニュースや教科書でしか触れることのない裁判を実際に目の当たりにし、法廷の緊張感や進行の様子を体験できたことは参加者にとって大変貴重な経験となったと思います。
刑事事件の傍聴では、法廷に入った瞬間に厳粛な空気が漂い、被告人が入廷すると場の緊張感が一層高まるのを感じてもらえたのではないかと思います。
一方で民事事件の傍聴は、第1回弁論手続、尋問手続を傍聴しました。どうしても争点等をその場で理解することは困難ですが、社会生活に密接した問題を冷静に解決していく場面が垣間見えました。
また、傍聴終了後には傍聴した裁判についての解説を引率の弁護士が行い、参加した学生からは多くの質問が飛び交いました。
実際に裁判を傍聴することで、教科書や講義だけでは得られないリアルな理解が得られ、参加者は「裁判の場が社会にとって不可欠な存在であること」を肌で感じることができたのではないでしょうか。

4 参加者の様子

会場には、高校生や大学生をメインに、法科大学院進学志望者や将来の進路を考えている学生など、幅広い関心を持つ若者が集まりました。
開始前は緊張した表情を見せていた学生たちも、傍聴に行き、裁判の解説を聞いたり、弁護士の自己紹介やエピソードトークが始まったりすると徐々にリラックスした雰囲気に変わり、積極的に耳を傾ける姿勢が印象的でした。
事前の質問事項に回答する際には「実際に収入や生活は安定しているのか?」「法律の勉強におすすめの本は?」といった具体的な内容にまで踏み込みました。
登壇した弁護士は一つひとつの質問に真剣に答え、ときには自身の経験談を交えながら、学生が安心して将来をイメージできるように工夫していました。
また、中には中学生や親子連れでの参加もありました。
将来の職業選択を考える若者にとって、実際の裁判を見学したり、弁護士の声を聞いたりできる体験は大きな刺激となり、進路を真剣に考えるきっかけになったことが伺えます。
イベント全体を通じて、学生の積極性と好奇心が引き出され、学びと気づきの多い時間となりました。

5 さいごに

今回のイベントは参加者の満足度も高く、有意義なものであったと思います。
参加した学生が今後の進路の参考となり、将来、ともに研鑽を積むことができる同業者として法曹界に入っていただけることを楽しみにしています。

あさかぜ基金だより

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弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 小島 くみ(75期)

豊前の西村弁護士に会ってきました

去る7月28日、豊前総合法律事務所を訪問、見学し、西村弁護士から、司法過疎地域である豊前市において事務所を開設してからの弁護士活動などについてお話を聞いてきました。

あさかぜ基金法律事務所は、九弁連管内の司法過疎地に派遣する弁護士を養成する公設事務所です。あさかぜ基金法律事務所で養成を受けた弁護士は、九弁連管内のひまわり基金法律事務所などに赴任します。そして、ひまわり基金法律事務所での任期を終えた後は、別の一般事務所に就職する弁護士や別の場所で独立する弁護士など様々ですが、なかには、そのまま現地に定着する弁護士がいます。

西村幸太郎弁護士(66期)は、あさかぜ基金法律事務所で養成を受けた後、平成28年10月に福岡県豊前市の豊前ひまわり法律事務所を開設して赴任し、任期を終えた後の令和元年10月、福岡県豊前市において豊前総合法律事務所を開設して同地に定着しました。

豊前市での弁護士活動

豊前市は、福岡県の東端に位置しており、人口2万3000人、南には修験道の遺跡で知られる求菩提山や天然記念物ツクシシャクナゲの群生地のある犬ヶ岳を望み、北は波静かな周防灘に面している緑豊かな田園都市です。

そして、豊前市は、行橋市及び苅田町などの京都郡、吉富町などの築上郡などとともに福岡地方裁判所行橋支部管轄である司法過疎地です。

西村弁護士は、3年間にわたる豊前ひまわり基金法律事務所においての執務を継続した後、豊前市での活動を継続したいとの思いを強くしたことから、同地に骨をうずめるべく定着し、現在は、豊前市に隣接する吉富町に新居を構えて子ども2人の子育てをするなど、自然に囲まれた同地での生活を家族4人で満喫しているとのことです。

西村弁護士は、豊前市や築上町、上毛町、吉富町にとどまらず、周辺地域で弁護士の少ない地域にお住いの人々からの依頼も受けているとのことです。そして、多くの人々が、気軽に法律相談をすることができるように工夫して交通事故、相続、離婚、労働事件、債務整理及び刑事事件など、幅広い分野において、地域在住の人々の意向に沿うような解決を目指しているということや、地域のニーズに応えて、終活セミナーを開催するなど新たなる客層の開拓にも意欲的にとり組んでいるということ、他士業と連携して依頼を増やしているということなどの話を聴くことができました。今後の課題は、司法過疎地域で業務を引継いでくれる弁護士を得ることであるとのことでした。

多くの事件を抱え、豊前市で活躍している西村弁護士の話を聴いて、司法過疎地域における弁護士の存在意義及び今後の課題というものを実感することができました。

地域に根差した弁護士を目指して

私は、令和6年2月にあさかぜに入所し、司法過疎偏在地域への赴任に向けて養成を受けてきましたが、来年早々、長崎県壱岐市にある壱岐ひまわり基金法律事務所に赴任させていただけることとなりました。

西村弁護士をはじめ、司法過疎偏在地域で活躍されている諸先輩弁護士をお手本として、地域の人たちから頼りにされる存在となれるよう、より一層の研鑽を積んでいかねばならないと、決意を新たにしています。

会員の皆様には、今後とも私たちあさかぜ所員への温かいご支援とご指導をお願いいたします。

豊前総合法律事務所

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