弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年7月31日

志は高く、目線は低く

司法

(霧山昴)
著者  久保利 英明、 出版  財界研究所

 大先輩の弁護士が50年前にアフリカへ単身で渡って旅行したときの体験を書きつづっています。
 旅へ出発したのは、1968年4月のことです。私は大学2年生になったばかり。セツルメント活動に打ち込んで、大忙しの毎日でした。やがて、6月に東大闘争が勃発し、翌年3月まで、まともな授業はありませんでした。
 著者は4月13日に日本を出て、日本に戻ってきたのは9月27日です。この5ヶ月間のうちの2ヶ月間をアフリカで過ごしています。
 私自身は大学生のときもそうですし、弁護士になるまで海外旅行するなんて考えたこともありませんでした。勇気がなかったというもありますが、なによりお金がありませんでした。
 では、著者は、いったい海外旅行の費用をどうやって工面したのか・・・。なんとなんと、中学生になるころから、株式投資をしていたというのです。これには参りました。すっかり降参です。株式投資なんて、今に至るまで考えたこともありません。株式投資に失敗した人の相談は何度も乗りました。先物取引の失敗は詐欺商法だということで、弁護団をつくって取り組み、それなりの成果もあげました・・・。著者は株式投資が成功したため、結局、「無銭旅行」を楽しめたというのです。すごいですね。
 著者は50万円を用意して出発。6ヶ月間の世界旅行なので、1日5ドルの貧乏旅行。勇気ありますよね。私はとても真似できません。
ところが、父親は、こう言って反対した。「せっかく難しい試験に受かって弁護士になれるというのに、アフリカで死んでしまったらどうするんだ・・・」。これに対して母親は、反対しなかった。「3人も子どもがいるんだから、一人くらい死んだって仕方ないわよ」。ええっ、冗談にしても、すごいセリフですね・・・。
 著者は出発時に84キロあった体重が、帰国したときには、20キロも減って62キロになっていた。今では、かつての80キロは軽くオーバーしているのではないでしょうか・・・。
 なぜ20キロも減ったのか。それは、この本を読むと一目瞭然。すごい貧乏旅行なのです。現地の人と同じ水を飲んでも、ほとんど下痢することもなかったというのですから、よほど著者の胃腸は頑丈なのでしょうね。うらやましい限りです。
 アフリカでもどこでも、著者は日本人だというだけで、現地で優遇された。
 あのころの日本人は、世界中で特別な存在たった。もう戦争はしない、軍隊も持たないと言っている。そして、柔道や空手をしていて、武士道に精通した人たちばかりだと思われていた。
 今では、日本人は、アメリカべったりで、「戦争するフツーの国の人」になり下がってしまいましたよね。あのアベ首相のせいで・・・。
 スーダンではラクダのくるぶしを丸ごとグツグツ煮こんだ料理を食べたそうです。空腹だったせいもあって、とても美味しかったとのこと。牛のテール料理みたいなものなんでしょうか・・・。
 最後に著者は、弁護士にとって大切は「3つのY」を強調しています。一つは、柔らかい頭。二つ目は、優しい心。そして、三つ目は、勇気。
 なるほど、これは私もまったく同感です。
「ことは急げ。見るべきものはすぐに見る。ほしいと思ったらすぐ買え。チャンスは二度ない」
 23歳の東大生が書いたというのです。見事です。
 ちなみに、私は、司法試験に合格したあと、小さな診療所で受付事務していました。お金がなかったので、アルバイトをして生活費を稼いだのです。海外旅行するなんでいう選択肢はありませんでした
 本書が著者の年齢と同じ71冊目になるというのもすごいことです。今後ますます元気にご活躍ください。
 たまには、自分40年前50年前を振り返って初心を思い出すのも、人間にとってもいいことだと思いました。
(2016年2月刊。1500円+税)


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2016年7月30日

檻の中のライオン

司法

(霧山昴)
著者  楾 大樹   出版  かもかわ出版

 権力をライオンにみたて、そのライオンに自由勝手なマネをさせないための、檻(おり)が憲法だという、とても分かりやすい憲法の解説書です。
 ところで。著者の名前は何と読むでしょうか・・・。こんな漢字は見たこともありません。「はんどう」と読みます。ちなみに、手元の漢和辞書で、引いてみました。すると、どうでしょう・・・。角川の漢和中辞典にはありませんでした。木と泉という、よく見る字の組み合わせなので、あってもよさそうですが・・・。
 「ライオンは強いうえに、わがままなことがあります。暴れ出したら手がつけられません。
 歴史を振り返ると、ライオンが私たちを襲いかかることがよくありました」
 そうなんですよね。今のアベ政権をみていると、よく分かります。ネコなで声で、ささやきながら、とんでもない恐ろしいことを平気でやっています。マスコミを支配していますので、自分の都合の悪いことは、多くの国民に知らせないようにしています。
ライオンが「緊急事態には檻から飛び出してキミたちを守れるように、内側からカギを開けられるような檻を作りかえよう」と言い出した。
 でも、ライオンは、本当に私たちを守るためだけに檻から出るのでしょうか。勝手な都合で檻から出て、私たちを襲わないという保障がどこにあるのでしょうか・・・。
 ライオンが自ら「緊急事態だ」と言いさえすれば、檻から出すことが出来るのなら、檻がないのと同じということです。
 たくさんの絵とともに解説されていますので、中学生以上だったら理解できる内容だと思います。小学生でも、高学年だったら、読んで聞かせて、問答形式にしたら、かなり分かってもらえるように思います。
 広島の若手の弁護士である筆者のますますのご活躍を心から期待しています。
(2016年6月刊。1300円+税)

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2016年7月29日

ハイエナ

警察

(霧山昴)
著者  吉川 英梨 、 出版  幻冬舎文庫

振り込み詐欺の内幕を生々しく描いた警察小説です。とても勉強になりました。
暴力団をバックにした巧妙な分業体制がとられています。電話で泣きと脅しをする「架け子」グループが主犯だとは思いますが、ターゲットを効率よく落とすための精度の高い名簿屋が欠かせません。
この本によると、名簿屋になっているのは介護サービスを表看板にしたグループ。介護サービスを実施しながら顧客やその家族の内情を徹底的調査して名簿にまとめる。
横浜の名簿は他に比べて2割増しで売れる。詐欺の成功率が高いからだ。世田谷とか三鷹の名簿も高く売れたが、東京西部を食い尽くしたいま、いったん東京から離れる必要があった。
訪問介護の仕事で、ヒマをもてあましている老人たちの世話をする。彼らの口は異様なほど軽い。自宅のセキュリティもゆるゆる。自宅に派遣されてくる訪問介護員は、全員、いい人だと思い込んでいる。家族に相手にされず、ただひたすら時間をもてあましている、さみしい老人たち。愚痴もかねてなんでもかんでも話してしまう。とくに母親は、いとしい、いとしい息子の話をしっかりと・・・。
10人分の名簿をつくってネットの裏サイトで売りに出したら、詐欺グループの番頭クラスが5人も接触してきた。この名簿は高く評価されて、評判になった。成功率が9割だから、なるほど・・・。
番頭は名簿屋から、500万円で100人分の名簿を受けとった。高齢者の住所・氏名・電話番号だけでなく、その家族構成や職に至るまで完備した豪華盛りの情報は、一件あたりの値段が法外に高い。しかし、その分、ヒット率も高い。
被害者(マト)は、架け子のトークに最初こそ怪しんでも、息子の職場や所属、孫の名前や幼稚園の名前まで聞かされるうえ、架け子たちが醸し出す臨場感と切迫感にコロッと騙される。
番頭のケータイは、全部で7台ある。黒が各店舗の架け子リーダーとの専用電話で3台、青が受け子リーダーで2台、白は道具屋。相互連絡の専用ケータイをつかうのは、詐欺組織が芋づる式に検挙されないための防御策である。
受け子は、直接ターゲットと接触する重要な仕事であるにもかかわらず、パクられたって刑務所送りになることはない。刑事には知らぬ存ぜぬを貫き通したらいい。ただ、ネットで見つけた高額バイトに応募しただけだと言う。でも、受け子リーダーの存在を口に出したら、アウト。詐欺組織の一味と見なされ刑務所行き。言わなければ、留置場に1週間ほど放り込まれて終わり・・・。
スリーマンセルとは三人組を指す。横領ネタは息子が会社のお金を横領したというシナリオ。
鉄道警察を名乗り、コトの家族が痴漢行為をしたとして示談金をせしめる詐欺は鉄警という。つかっている名簿は、名簿屋から大金を出して購入した貴重な「道具」だから一度や二度の失敗で捨てることはない。別のシナリオで可能かどうか番頭たちが検討する。
この本は悪徳詐欺商法の内幕を紹介するものとして一読に値する警察小説です。
(2016年6月刊。800円+税)

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2016年7月28日

エンゲルス

イギリス

(霧山昴)
著者  トリストラム・ハント 、 出版  筑摩書房

 大学生のころ、マルクスやエンゲルスの本をむさぼるように読みました。そして、ぐいぐいと目を開かせてもらったものです。
この本は、生身のエンゲルスをたっぷり紹介しています。理想像ではなく、等身大の人間として、紹介されています。エンゲルスだって、生身の人間ですから、いろいろ問題はあったのです。それでも、彼がなしとげた理論的功績が、そのことによって帳消しになるわけでは決してありません。
エンゲルスは、自らはイギリス産業革命の揺籃地であるマンチェスターで家業の綿工場を経営していた。そのお金で、40年にわたって友人のカール・マルクスとその家族の生活を支えた。マルクスが亡くなったあと、その生前に刊行できなかった『資本論』の2巻と3巻を完成し、刊行した。
エンゲルスはヴィクトリア朝中期にマンチェスターで綿企業を経営し、南アメリカの大農園からランカシャー州の工場やイギリス支配下のインドにまでおよぶ世界貿易の経済連鎖に日々たずさわっていたため、グローバル資本主義の仕組みに関する経験をもった。それが、マルクスの『資本論』に盛り込まれた。
エンゲルスは、マンチェスターではチャーチスト運動に関与し、1848年から49年にかけてドイツでバリケードによる市街戦に加わり、1871年にはパリ・コミューン支持者たちを鼓舞し、1890年のロンドンではイギリスの労働運動の難度を目の当たりにした。
人生の盛りの20年という長い年月にわたって、エンゲルスはマンチェスターの工場経営者としての自己嫌悪に陥る立場に耐え、マルクスが『資本論』を書きあげるための資金と自由を保障した。
エンゲルスは、プロイセン(ドイツ)の裕福なカルヴァン派貿易高の御曹司として生まれ育った。軍人であると同時に、知識人でもあったエンゲルスは、まさに将軍だった。
資本主義の最大の罪は、それが人間の楽しみを否定することによって、人の魂を傷つけたことだった。より具体的にいうと、快楽が金持ちだけのものとなった。
エンゲルスが24歳のときに書いた『イギリスにおける労働者階級の状態』は、20世紀になって都市化するイギリスの恐怖、搾取、それに階級闘争を簡潔に記した読み物となっている。この本は、共産主義理論の草分けとなる文献だった。
マルクスとエンゲルスは、プロイセン(ドイツ)のライン地方出身という同じ背景をもち、ひどく異なる点はあるものの、二人は相互に補いあう性格として認めあった。エンゲルスのほうが明るく、歪みの少ない、協調性のある気質であり、身体的にも知的にも、エンゲルスのほうが利いて回復力に富んでいた。
1848年2月の『共産党宣言』は、発刊された当時は、なんの衝撃ももたらさなかった。
エンゲルスが最後にいちばん期待をかけていたのは1861年のアメリカ南北戦争だった。
マルクスとエンゲルスは手紙をやりとりしていた。その手紙から、マルクスが『資本論』に関する考えを、エンゲルスと相談しながら発展させていったことが分かる。『資本論』の初期の推進力の多くは、エンゲルス自身によるものだった。
久しぶりにマルクス・エンゲルスの本を読み直してみようと思ったことでした。
(2016年3月刊。3900円+税)

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2016年7月27日

刑罰はどのように決まるか

司法

(霧山昴)
著者  森 炎 、 出版  筑摩選書

 日本では、「犯罪者は刑務所行き」という定式はまったく成り立っていない。検察庁が受理する「犯罪者」は年間160万人前後で、そのうち6割が不起訴となり、刑務所に入るのは3万人弱、比率として2%弱でしかない。有罪になってもその6割は執行猶予となっている。
 刑務所に入れた場合であっても、早く仮釈放すればするほど、それだけ再犯は少なくなるという関係にある。満期までつとめたほうが再犯率は高い。
刑務所生活が長ければ長いだけ、社会への適応は困難になる。
日本の再犯率は40%。治安の維持にとって、初犯者よりも再犯問題の占めるウェートは大きい。近年、初犯者の数は順調に減り続けている。
刑務所では、衣食住、医療費、光熱水道費すべてを刑務所がまかなっている。一人あたりの年間費用は46万円。
日本で定められている法定刑は必ずしも合理的ではない。日本では、10年前まで殺人よりも現住建造物放火のほうが重かった。
殺人罪の受刑者の平均刑期は7年。殺人罪の量刑相場は、20年前は懲役8年、10年前は懲役10年、そして現在は懲役13年となっている。
アメリカの調査によると、殺人の3分の2は親しい知人間で起きていて、そのうちの8割は家庭内で発生している。女性は寝室で殺され、男性は台所で殺される。日本では、行きずりの殺人は稀。
コンビニ強盗が強盗犯の主流になっている。日本で銀行強盗は少なく、銀行から預金をおろして帰る人を途中で襲う「カモネギ待ち」強盗が多い。
被告人は裁判所の法廷で「反省している」と述べさせられる。しかし、法廷で良心にしたがって本心を言うと刑を重くされる。裁判所に迎合する虚飾の演技が強要される。日本の裁判所は欧米の教会のようなもので、裁判官は説教師で、被告人がざんげないし改悛の情を述べると、罪一等が減じられる。
元裁判官による本なので、裁判所の内部の動きを垣間見ることが出来ます。
                                    (2016年1月刊。1600円+税)

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