弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年2月28日

クロスレファレンス・民事実務講義

司法

(霧山昴)
著者 京野 哲也 、 出版  ぎょうせい

司法研修所で弁護士教官をつとめた経験を生かした、若手弁護士のための民事弁護実務入門テキストです。あらゆる論点を網羅し尽くしているのではないかと思えるほど、幅広く、そして奥深く実務の諸問題に光をあてて、実践的に解説されています。
「あとがき」に供託金取戻請求権の差押・譲渡を知らなかったと書かれていますが、これは私は見聞したことがあります。ただ、「二段の推定」とか「処分証書」という用語は聞いたこともありませんでした。
二段推定というのは、書面に本人の印鑑(ハンコ)の印影があるとき、それは本人の意思にもとづいて押印されたものと推定され(一段の推定)、さらに、その文書が本人の意思にもとづいて作成されたと推定される(二段の推定)というものです。
この点は、私も裁判で何度も、この反対論を主張して敗れました。
証人尋問のときに異議を述べる側の理由として、次のようなものがあげられています。
抽象的すぎる。質問が長すぎる。質問が複雑で答えにくい。証人を侮辱し、困惑させる。誘導尋問だ。証人が認めていないことを前提とした質問だ。重複質問。争点と関連性なし。意見を求めている。証人の経験していないことを訊いている。伝聞。知りえないことを訊いている。プライバシーに関するもので、困惑させる。時期ないし主体が特定されていない。仮定の質問だ。
なーるほど、これだけのことが異議理由になるのですね・・・。
求釈明。釈明権(発問権)は、当事者の権利ではなく、裁判長が当事者に釈明を求める権能のこと。当事者は裁判長に対してその行使を求める(求釈明)。
実際には、準備書面に記載すると、裁判長の明示的な発問がなくとも相手方はこれに応じることが通常である。
ときに、少なくない裁判官が当事者に釈明を求めるという意味で「釈明する」と発言することがあります。これは聞いていて、言葉としていかにもおかしい感じです。いつも違和感があります。
大判で400頁もあり、手にするとずしりと重たい手引書ですが、若手弁護士が何かで困ったときに参照すれば、かなりの確率で役に立つ手引書だと思いました。
注記も詳しくて、価値ある5000円(正確には4536円)です。
(2016年9月刊。4200円+税)

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2017年2月27日

西南戦争の考古学的研究

日本史(明治)

(霧山昴)
著者  高橋 信武 、 出版  吉川弘文館

 博士論文をベースとした大変な労作です。明治10年に起きた西南戦争の現地に出かけ、そこに落ちている弾丸や台場、塹壕などを歩きまわって戦闘の実際を確認したのです。
 熊本・大分そして宮崎の山のなかを歩きまわり、鹿に出会い、マダニやヒルに襲われたとのこと。熊がいないのが良かったそうです。いやはや学問を究めるのも大変な苦労をともなうものなんですね・・・。
 西南戦争では、官軍の総兵力は4~5万人。うち戦死者は6843人。15%が戦死したことになる。対する薩軍は総兵力5万1000人で、うち8302人が戦死した。戦死者の割合は16%。両軍とも、ほぼ同じ割合の戦死者を出している。
 著者はなぜ現地に出かけてみることが大事かというと、両軍の従軍日記等に出てくる地名や山の名前は適当につけられることが多く、多くの実際の地名と異なることがある。そして、弾の落下地点を地図に落とし込む作業をすると、どちらの軍が撃ち込んだのかが分かり、戦闘状況が再現できる。したがって、落下した銃弾をきちんと見分ける必要があるというのです。
 当時の銃弾は鉛製が主体で、表面は後年のように銅で覆われていない。発射直後は高熱状態で、近くに着弾するとペシャンコにつぶれてしまう。遠くに落下したときには、原型をとどめる。
 西南戦争では、初期の吉次峠や田原坂の戦闘は有名だが、その場所での勝敗によって戦争全体の決着がつくものではなかった。中世の戦いのように密集した軍同士が衝突して決着がつく決戦ではなく、全般的にみられたのは、両軍ともに長い戦線を形成するとともに、敵の戦線をどこかで突破しようとする戦闘だった。その結果、一部で戦線を突破しても、少し下がった位置に新たな戦線がつくり直され、新たな戦線で戦いは継続した。
両軍とも、初めから抜刀して戦いを始めるという戦闘はなかった。これは古来から同じ。官軍が田原坂を突破したのは3月20日だったが、薩軍は新たな戦線を構築したため、結局、南下しようとした官軍が熊本城に入ったのは4月14日のこと。
薩軍は戦いの初めから弾丸不足に悩まされていた。薩軍は銃弾の材料となる鉛が不足したため、鍚を混ぜたり、銅を追加したりした。そして鉄製銃弾をつかったものの、軽量であり、銃の口径に適合していなかったので、紙を巻いて銃の内径に合うよう調整して射撃していた。しかし、これは遠くにまっすぐ飛べない代物だった。官軍兵士たちは、鍋からできた弾だと笑っていた。
 薩軍は威嚇のためや探り撃ちのときには鉄製銃弾をつかい、本格的戦闘のときだけ、大事に貯めておいて鍚と鉛の合金弾丸などをつかった。
 薩軍って、こんな苦労までしていたのですね、知りませんでした。
 官軍が使った小銃はエンピール銃が2万5千挺、スナイドル銃が8300挺。
この本では官軍の主な大砲は四斤砲であったとされています。私が前に読んだ本によると官軍が田原坂の正面突破にあくまでこだわったのは、ガットリング法(大砲)を人力で運び上げる坂の傾斜角の適地が田原坂しかなかったからだというものでした。この本では、そのような理由を推察できません。大砲のところも、もっと論述してほしかったと思いました。
 ともかく、各種銃弾の図解まである、とても実証的な西南戦争の実情をよく知ることのできる労作です。関心のある方には、図書館でもご一読をおすすめします。
(2017年1月刊。13000円+税)

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2017年2月26日

カストロ兄弟

キューバ

(霧山昴)
著者  宮本 信生 、 出版  美術の杜出版

 カストロ兄弟の未公開写真が何枚も紹介されています。著者はキューバ大使をつとめていたこともある元外交官です。キューバの歴史と内情が分析的に語られていて、説得力があります。
 キューバの国家経済は大変のようですが、国民が反乱を起こさなかった理由がいくつもあるようです。薄くても、全国民が福祉・医療のセイフティー・ネットの下にあり、安心感がある。キューバは気候温暖なので、飢えと寒さによる死の恐怖はない。ぜいたく言わなければ生きていける。
政府は有機農業を奨励している。教育水準は高く、識字率は100%に近い。医学もレベルが高い。
 キューバ政府の高官であっても汚職はきびしく裁かれる。アンゴラ作戦群のオチョア司令官は麻薬売買等によって死刑判決を受けて処刑された。ラヘ官房長は外国からの利益供与を受けて姿を消してしまった。同じく、ナンバー・スリと目されていたアルダナ政治局員(党中央委書記)も同じような理由で党から除名された。
 カストロは党指導部の清廉さこそ、党が国民の支持を得る最大の前提であると認識し、実行してきた。
キューバにおいては特権的官僚群は存在しない。大臣であっても自転車通勤したりしている。したがって、一般国民が党や政府の指導部に対して恨みや嫉みや怨念は存在しない。ここが旧ソ連などとはまったく異なるようです。
キューバは、ソ連の援助に頼りきっていたこともありましたし、アフリカのアンゴラへ1万5000人そして最大時5万人も軍人を派遣していたこともありました。それは、経済的には大変な負担でしたが、第三世界では評価されることでもありました。
20年前の本『カストロ』を全面的に書き改めたもののようですが、豊富な写真によってキューバとカストロ兄弟の理解を助けてくれます。
それにしても、幼いころのカストロ兄弟は、写真を見ると、いかにも賢い感じです。
(2016年11月刊。1500円+税)

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2017年2月25日

屋根うらの絵本かき

人間

(霧山昴)
著者  ちば てつや 、 出版  新日本出版社

 私も大学生のころは、毎週、マンガ週刊誌を心待ちにしていました。私のいた学生寮(駒場寮)では、寮生がまわし読みをしていました。発売初日はケンカこそしませんでしたが、奪いあい状態で、みんな競って読んでいました。何をかって・・・。「あしたのジョー」です。この本では原作者の梶原一騎との壮絶なバトルが文章だけでなく、絵によって再現されていますから、まさしく臨場感があります。『少年マガジン』は、そのころ飛ぶように売れていたと思います。
 ジョーの相手となったのが力石徹。そして力石徹はついに死んでしまうのです。その死に至るストーリーにするのかどうか、編集とテレビ局と壮絶なバトルが展開していたというのです。ところが、著者はついに力石徹を殺してしまうのです。すると、全国のファンから、たくさんの弔電が届き、ついには力石の葬儀までやられたのです。冗談ではありません。講堂には特設リングがつくられ、お坊さんが真面目な顔でお経をあげたのです。大勢のファンが葬儀に参列しようと行列をつくりました。まあ、私は、そこまではしていませんが、たしかに、「あしたのジョー」のインパクトは相当なものでした。このころ私はまだ20歳前です。著者は30代半ばでした。
 私は、著者の丸っこい感じの絵が大好きです。ほのぼの感があり、心がゆったり、気分がよくなります。ちばあきおは弟のマンガ家です。こちらも好きでしたが、50代でなくなったとのこと、惜しいことです。
 著者がマンガ家として初めて原稿料をもらったのはなんと高校2年生のとき。1万2351円でした。母親から、本当に原稿料なのかと疑われたとのことです。
 著者は戦前の満州で生まれ育ち、6歳までいました。父親は印刷会社につとめていたのです。そして、敗戦後は戦前に親しくしていた中国人に助けられ、生命からがら日本に帰ってきました。その経過も見事な絵で再現されています。ですから、著者は戦争反対、平和を愛する心が人一倍、強いのです。
 終戦後に満州で亡くなった日本人が24万5000人もいるとのこと。本当に哀れです。誤った国策による犠牲者です。
 いま、著者は宇都宮にある大学で学生に漫画を教えているそうです。そして、東京の自宅では屋根裏のような部屋を仕事部屋としているとのこと。それは満州で中国人一家に隠まれて生活していた屋根裏と同じような気分になって居心地がいいというのです。
 著者は何かにつけて要領が悪くてノロマだったとのこと。そのすばらしいマンガからは想像もできません。
 ほのぼのマンガをみて、そして人と人とのつながりを大切にして生きてきた著者の話を読んで、いいマンガって、読む人を幸せな気分にしてくれることを実感しました。ありがとうございました。皆さんに強く一読をおすすめします。
(2016年12月刊。1900円+税)

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2017年2月24日

汝、ふたつの故国に殉ず

中国(台湾)

(霧山昴)
著者  門田 隆将 、 出版  角川書店

 戦後、日本の敗戦によって日本軍が引き揚げたあと、中国本土から蒋介石の国民党軍が台湾に渡ってきて統治するようになります。
その初期に台湾人が弾圧された事件が、1947年2月28日に起きた「二二八事件」。2万人から3万人に及ぶ台湾人が虐殺された。しかも、狙われたのは台湾人の指導階級、知識人たちだった。
1947年から1987年まで戒厳令は継続した。なんと38年間。世界最長だ。
 この本は、二二八事件で虐殺された一人の日本人、坂井徳章の生涯を紹介しています。
 坂井徳章の父・坂井徳蔵は熊本県宇土市の出身。宇土の資産家の御曹司だった坂井徳蔵は20歳のとき、台湾へ渡り、警察官となった。
 1915年8月、徳蔵の勤務していた派出所が新興宗教の信者を中心とする暴徒に襲われた。西米庵事件と呼ばれ、警察官と家族22人が亡くなった。その中に40歳の徳蔵もふくまれていた。その報復として、日本軍は台湾人を徹底して弾圧した。台湾人の死者は1254人に及んでいる。
 父親を失った坂井家は窮乏生活を余儀なくされたが、徳章は成績抜群の子どもだった。そこで、徳章は師範学校に入学した。ところが、台湾では学校のトップは必ず内地人(日本人)で、本島人(台湾人)は、日本人の上には立てなかった。徳章は、そこに疑問を抱いた。その結果、徳章は3年に進級した直後に退学した。そして、やがて、巡査試験を受けた。19歳、20歳になる直前のこと。なんとか巡査になり、派出所勤務につく。そして、そこでも日本人の横暴に目をつぶることは出来なかった。警察をやめ、東京に出て高等文官試験に挑戦することにした。1939年(昭和14年)4月、32歳の春のこと。徳章は中央大学に聴講生として通学した。
昭和16年秋、徳章は高等文官司法科試験を受験し、合格した。そして、さらに昭和18年夏、徳章は高文の行政科試験にも合格した。
これはすごいですね。よほど出来たのですね。もちろん、大変な努力もしたことでしょうが・・・。
昭和18年9月、坂井徳章は台湾に戻り、台南市で弁護士業務を開始した。
日本の敗戦時、台湾には34万人の日本人が住んでいた。本島人(台湾人)は、600万人をこえる。
1947年2月。いつ何が起きても不思議でないほど、台湾人の我慢は限界に達していた。徳章たちは、騒乱の側に台南工学院の学生を向かわせるのではなく、逆に治安維持をまかせた。これによって学生たちの命も救われた。
 徳章は憲兵隊に逮捕され、拷問を加えられた。「両手が使えんよ。指も使えん」、徳章は知人にこう言った。軍事法廷に徳章が引き出されたのは、3月13日の午前10時。死刑が宣告された。
「私を縛りつける必要はない」
「目隠しも必要ない」
「私には大和魂の血が流れている」
そして、最後に日本語で叫んだ。
「台湾人、バンザーイ!」
二二八事件には、台湾人が当時の中国国民党の腐敗した台湾統治に反抗したことが無差別虐殺を引き起こしたという面だけでなく、国民党の統治者がこの機会に乗じて計画的に台湾各地のエリートを捕えて殺害した面の二つがあった。あの当時、一切の措置は蒋介石の指示によっておこなわれていた。大虐殺を実行した張本人たちは、蒋介石から、その後も重用されて昇進していった。
父親が日本人、母親は台湾人という坂井徳章は、弁護士として、台湾人のプライドを守って身を挺してたたかったのでした。
今までまったく知らなかった話ですが、心ある人は昔もいたんだなと驚嘆しました。
(2016年12月刊。1800円+税)

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