弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2003年11月 1日

トラウマの心理学

著者:小西聖子、出版社:NHKライブラリー
 PTSDとかトラウマという言葉がやっと分かりかけてきました。殺人事件の遺族について、他人(ひと)と話す気になれるまで早くて半年から1年ほどかかるそうです。本当にそうだろうな、と思います。
 幽体離脱ということが紹介されています。たとえば強姦されている被害者が強姦されている自分を上から見ている体験をするというのです。上から見ている自分は強姦されている自分の苦痛を感じることはありません。そういう「感覚」が起き、苦痛を回避するのです。自分では対処できないような苦痛を強いられたとき、そのような事態を変えることができないのなら、自分の側を変えて精神を守ろうという、人間が自分を守る働きのひとつなのです。
 PTSDには薬物治療も有効で、SSRIという、脳内のセロトニンの再吸収を抑制する薬があり、副作用も少ないそうです。精神療法(セラピー)のひとつにEMDRという眼球を左右にリズミカルに動かすことで感情の処理過程を促進し、トラウマティックな記憶に伴う苦痛な感情を脱感作させるものがあることを初めて知りました。
 また、セラピストは、意欲的にやろうとする人ほどバーンアウト(燃えつき症候群)しやすく、3年ないし5年のうちに大半がバーンアウトを体験するそうです。それだけ加害者を社会復帰させる仕事は難しいというわけです。

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