弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2003年11月 1日

99歳まで生きたあかんぼう

著者:辻仁成、出版社:集英社
 知人のNAOMIさんから面白いよと奨められて読んだ本。たしかに頁をくるのがもどかしいほど、ぐいぐいと魅きつけられて読んでいった。1人の男が苦労してレストランのシェフとして成功する。しかし、慢心があれば逆境にも落ちこむ。それでも、さらに努力して乗りこえる。料理が国王の前に次々に出されていった。ヒラメのカルパッチョはオリーブオイルと塩がかかっているだけだが絶品だった。焼き蛤は殻ごと炭火で焼いたために、真っ黒な塊で出てきた。白いお皿に真っ黒な物体がごろごろ。国王に対して失礼ではないのか、と政府の人間は顔を強張らせた。ところが、殻を開けた途端、会場に潮の香りが立ち込めた。そして中からは生まれたてのあかんぼうのような蛤の身が現れたのだ。汁を一口、蛤をつるり、国王は思わず、唸り声をあげた。おいしいものを知り尽くした国王だけに、本物のおいしさがわかるのだ。
 スズキのポワレは油を使わず、鉄板の上でかりかりになるまで皮を焼いた。しかも身は引っ繰り返し弱火でゆっくりじっくり火を通しただけの究極の品。ソースなど使わない。ちょっと塩がまぶされただけだったが、これがうまい!そして最後のメイン料理に一同、目が点になる。農園でとれた旬の野菜の温かいサラダだ。国王の口の中で野菜たちが歌を歌う。素材の良さを生かした究極の味を見事に実現し、大勢の子や孫たちに囲まれて99歳で大往生をとげる。読んでいて、心をほのぼのと温かくしてくれるいい本だった。

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