弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年2月 7日

はなぶさ2、最強ミッションの真実

宇宙


(霧山昴)
著者 津田 雄一 、 出版 NHK出版新書

はやぶさ2は無事に日本に戻ってきました。目下、リュウグウで採取してきた岩石の分析中だと思います。この本では、はやぶさ2がリュウグウに無事たどり着き岩石を採取し、地球への帰還の旅を始めるところまでが語られています。
なにしろすごい話の連続です。たとえ話でいうと、東京スカイツリーのてっぺんから、富士山の頂上にいるミジンコを見分けることができるほどの分解能をもつデルタドア。
はやぶさ2から送られてくる電波を地球上の日本とアメリカとオーストラリアにある複数のアンテナで同時に受信し、その位相差を計測することで探査機の太陽系内での位置を正確に測る。数億キロメートルの彼方を飛行する探査機の位置をキロメートル単位で正確に測ることができる。
はやぶさ2は、イオンエンジンで宇宙を高速で飛んでいる。その時速5400キロというのは、新幹線の20倍、飛行機の6倍の速さ。これほどの加速量をはやぶさ2の重さ609キログラムのうちのわずか30キログラムの燃料でまかなう。
イオンエンジンは、キセノンを燃料とする極端に燃費のいい宇宙用の推進機関。キセノンをマイクロ波のエネルギーで電離させ、その電荷を帯びた粒子(プラズマ)に高電圧をかける。プラス電荷の粒子がマイナスの電極に引きつけられることを利用し、キセノンのプラズマ粒子を加速して宇宙空間へ射出する、その反動で機体を推進させる。発生できる力は1グラム重。地球上で1円玉ひとつを持ち上げられる力。そして、その1グラム重を1年間ずっと発生し続けるのに必要なキセノンはわずか10キログラム。これで、はやぶさ2を時速2000キロメートルまで加速することができる。イオンエンジンは、力は弱いが超絶持久力のある推進機関だ。
はやぶさ2の根幹技術は、4つ。一つは、このイオンエンジン。二つは光学誘導航法、三つはサンプル採取技術、四つは高速大気圏突入技術。
はやぶさ2のチームづくりでは共通体験を重視し、いかに失敗を経験させるかを重視した。すごい発想です。模擬訓練のときには、神様チームと運用チームとに分かれ、神様チームはとんでもない無理難題を運用チームに押しつけるのでした。その一つには、重要人物が嫌なタイミングで腹痛になって管制室から消えてしまう。そんなとき運用を続行してよいのか...。「こんなトラブル起こるわけない」というトラブルまで、ありとあらゆるトラブルを想定して、その対策をみんなで練っていったというのです。すごいです。
計算だけを頼りに、30億キロメートルもの距離を目隠して飛び続けていて、ある日ぱっと目を開いたら、その視野の真ん中にちゃんとリュウグウがうつっていた。嘘のような本当に起きた話です。
はやぶさ2がリュウグウに着陸できるのは直径6メートルのエリア。なので許される着陸誤差は3メートルしかない。そして、実際に着陸したときの誤差は、なんとわずか1メートル(60センチ)しかなかったのでした。いやはや、これが3億キロメートル彼方の未踏天体への初着陸なのです。
はやぶさ2の管制室の休憩スペース「スナック姫」には安いスナック菓子とアルコールなしの飲料のみだったとのこと。やっぱりアルコールはダメなんですよね。外ではいいわけでしょうが...。
はやぶさ2に関わったチームのメンバーが、次から次へ難局に直面しながら、まったく悲壮感がなく、いかにも壮大な実験を楽しんでいるという様子が手にとるように伝わってくる、ハラハラドキドキの面白い本でした。日本の科学者もやりますね...。
一読を強くおすすめします。
(2020年11月刊。900円+税)

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