弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年10月17日

日本社会のヘイトスピーチ

社会


(霧山昴)
著者 金 竜介・姜 文江 、 出版  明石書店

在日コリアン弁護士たちが怒りをこめて日本社会の現状を告白しています。私もヘイトスピーチに接すると背筋が冷たくなりますし、悲しい思いです。
ヘイトスピーチ解消法が2016年5月24日に成立しているのに、なかなか実効性が上がっていない。
現場では、ヘイトスピーチをがなりたてるデモ行進が行政当局により許可され、現場の警察官はヘイトデモを守るようにして、「トラブル防止のため」と称して、ヘイトへのカウンター抗議行動のほうを規制している。これでは公務の適正な執行にあたらない。
在日コリアン弁護士たちに対して大量の懲戒請求がなされた。
これは、福岡でもあり、在日コリアンを支持していると決めつけられた日本の弁護士と弁護士会の役員に対する懲戒請求がなされました。もちろん、そんな請求が認められるわけではありませんが、弁護士会に無用な事務処理の手間と費用をとらせました。
在日コリアン弁護士たちは、根拠のない懲戒請求をした人に対して謝罪を求め、応じない人に対しては慰謝料を請求する裁判を起こしました。そして、東京地裁も東京高裁も、明確に人種差別であると認定して、被告(懲戒請求した人)に慰謝料を支払うよう命じました。
この懲戒請求した人の実像は、ごくありふれた中高年でした。ネットのヘイトスピーチをうのみにした、思慮の足りない人なのです。
ヘイトスピーチは、単なる悪口ではなく、人種差別の一種である。
在日コリアンの永住権を「特権」であるかのように見て言いたてる人は、日本が過去にした侵略・植民地支配に対する反省が欠けている。その歴史認識をきちんと身につけていると、「特権」とは考えられなくなる。
日本政府は日本国内にある外国人向け学校に対して補助金を交付している。しかし、朝鮮学校に対する補助金を日本政府は打ち切ってしまいました。とんでもない差別です。このような安倍内閣の偏った姿勢こそがヘイトスピーチを助長し、後押ししている。そして、これを司法が情けないことに追認している。本当に残念です。
この点でも、勇気ある裁判官が求められています。
こんな本を今の日本社会に広く普及させなければ、いけないというのは、本当に残念無念です。でもでも、それだからこそ、ぜひ、あなたも手にとって読んでみてください。
(2019年10月刊。2200円+税)

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