弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年10月16日

東大闘争から50年、歴史の証言

社会


(霧山昴)
著者 東大闘争・確認書50年編集委員会 、 出版  花伝社

今から50年前に東京大学で何か起きていたのか、それは何を目ざしていたものだったのか、そして、そのとき関わった東大生たちは、その後をどう生きてきたのか、討論集会(1月10日に東大山上会館で開催)での発言と、34人の寄稿による貴重な証言集です。
ここに集まったのは、全共闘と対峙しながら東大を変革しようとした人たちで、東大闘争を安田講堂攻防戦と直結させて考える、俗世間にある間違った見方を否定します。
東大闘争は、そのとき東大に在学していた東大生(院生もふくむ)が空前の規模で参加したものです。一部に暴力行為・衝突がたしかにありましたが、それでもメインはクラス討論やサークルでの討論が生きていました。リコールが成立したり、代議員大会が成功していたのは、きちんと東大生たちが議論していたということでもあります。決して「民青」が東大を暴力的に支配したというものではありません。
そして、安田講堂前の広場を学生を埋め尽くしたのと同じように、秩父宮ラグビー場での画期的な大衆団交によって確認書が結ばれました。この確認書は、大学の自治は教授会の自治だという古い考え方を改めて、学生をふくめた全構成員による新しい大学自治のあり方が示されたものとして、画期的な意義をもっています。
今では国立大学まで私立大学と同じように採算本位でモノを考えるようになり、学生の大学運営への参加が弱まっていますが、確認書の原点にぜひ戻ってほしいものです。
そして、闘争を経た東大生たちが、その後の人生をどう生きていったのかにも注目したいところです。医師として地域医療の現場で担い、支えていった人、社会科教師として民主主義や暴力の問題について生徒たちと一緒に考える教育実践を続けた人・・・。文部官僚になって活躍していた途中で病気で亡くなったけれど、前川喜平氏に「河野学校」の卒業生だと名乗らせるほど影響力を与えた人もいます。
この本を読んで、東大闘争とは東大全共闘が担っていたものという間違った思い込みをぜひ捨て去ってほしいものです。
350頁、2500円と分厚くて、少し高い本ですが、全国的な学園紛争の「頂点」と位置づけられることの多い東大闘争の多面的な様相を知ることのできる本として、強く一読をおすすめします。少なくとも、全国の公共図書館と大学図書館に1冊常備してほしいものです。
(2019年10月刊。2500円+税)

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