弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年3月22日

シリア拘束40か月

中東(シリア)

(霧山昴)
著者 安田 純平 、 出版  ハーバー・ビジネス・オンライン

シリアに40ヶ月も拘束されていたジャーナリストの体験報告記です。
著者を「自己責任」と称してバッシングする人がいることを私はとても理解できません。著者のような勇気あるジャーナリストのおかげで、私たちはシリアの実際の状況を居ながらにして知ることができるわけです。危険だから行ってはいけないという安倍政権の統制にみんなが従順にしたがっていたら、私たちは知るべき必要な情報を何も入手できず、嘘つき政権の思うままに操られてしまうばかりではないでしょうか・・・。
著者は、シリア情勢を見ることは、現在の世界とこれからの世界を見るうえで参考になると言いますが、まったく同感です。
著者を40ヶ月も拘束していたのは、イスラム系ではなく世俗の組織ではないかということです。この組織は、最後まで名前を明らかにしていません。したがって、著者を殺害しても何の意味もないのです。
この組織は、イスラム法廷から受刑者を受け入れるビジネスをしていたと思われる。
著者は拘束されているあいだに、イスラム教の聖典クルアーン(コーラン)と預言者ムハンマド(モハメッド)の伝記を何度も読み返してイスラム教について学び、拘束していた組織のメンバーと話していたとのこと。
イスラム教は、平和的な面を非常にもっている宗教である。よく勉強しないと誤解してしまうところがある。
著者が解放されるについて、日本政府をふくめて誰かが身代金を支払ったのではないかという点について、著者はそれを否定しています。ただし、日本政府が3年4ヶ月間、可能な限りの努力をしてくれたと著者は謝意を表明しています。
要するに、日本人が外国で何者かに拘束されたとき、その日本人がどういう人物であるか、つまり日本政府にとって好ましいかどうかにかかわらず、救出すべきは日本政府としての当然の責務だということです。
邦人保護は必ずする。身代金を支払うことは絶対にしない。
この2つが大原則だと著者は強調しています。2番目は難しいけれど、そのとおりだと私も思います。
3年あまりも狭いところに閉じ込められていたのに、まともな精神状態で語れるというのは素晴らしいことだと思います。身体のあちこちにガタが来たりして大変なようですが、再び元気を回復して、ジャーナリストとして活躍されんことをこころから期待します。
わずか100頁あまりのブックレットですので、ぜひ手にとって読んでみてください。
(2018年11月刊。800円+税)

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