弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年7月16日

法廷弁論

司法

(霧山昴)
著者 加茂 隆康 、 出版  講談社

司法界をめぐるリーガルサスペンスというと、やはり殺人事件が起きないといけません。
高村薫の有名な『マークスの山』を読み終わったとき、その迫力に押しつぶされてしまいそうになっていました。しかし、ふと気がついたのです。まてよ、この登場人物って私とほとんど同世代じゃないのか、とすると、それほど個々の人間に組織を動かす力があるとは思えない・・・、そう思うと、とたんに迫力がやわらぎました。
それはともかく、この本を読んで、ええっ、いったい殺人事件を起こすほどの動機が存在しうるのか、現役の弁護士としては納得できないところを感じざるをえませんでした。
この書評コーナーで紹介する本にケチをつけるのは、まったく私の本意とするものではありません。ただ、私も弁護士会の綱紀・懲戒手続にいささか関与していますので、いかに東京と地方の違いがあるにせよ、起案担当委員のみが独走するという仕組みだという記述は、いやいや、そんなことはありませんよ、他の委員を馬鹿にしすぎですと言わざるをえません。
そして、この本には東京ならではの記述があります。福岡では考えられないと思います。
2005億円の巨額訴訟を提起して制裁的損害賠償法が適用されたため、3倍の額の勝訴判決を受けたので、弁護士が一人で800億円という目のくらむような金額の報酬を得たというのです。税金もガッポリ払ったはずですが、それでも、地方ではまったく考えられもしない巨額の収入があったことでしょう。にもかかわらず弁護士を続けるというのですから、その仕事はいわば趣味の世界みたいものですよね、きっと・・・。
不倫関係を清算するための殺人事件というのは、小説でも現実でも、昔から無数にあったし、これからもあることでしょう。しかし、弁護士会長になりたくて、その選挙の票欲しさから懲戒手続を左右するため、殺人を依頼するなんて、あまりにも現実離れしていて、同じ業界人が書いたなんて信じられません。
弁護士会の綱紀・懲戒手続について詳しく紹介されているだけに、この手続は弁護士会の一部の有力者の意のままに操作されている、少なくとも、その可能性があるという誤ったイメージを世間に与える小説ではないかと心配してしまいました。すみません。
(2018年4月刊。1600円+税)

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