弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年3月 3日

ようこそアラブへ

世界(アラブ)

(霧山昴)
著者 ハムダ なおこ 、 出版  国書刊行会

アラブ首長国連邦(UAE)にすむ日本人女性によるレポートです。大変面白く、一気に読みあげました。なるほど、国が違うと、こんなにも考え方や、習慣が異なるのですね。改めて、よくよく考えさせられました。
もちろん、みんな違って、みんないい、という金子みすずの言葉のとおりなのですが、それを実感し行動するには、自覚的な努力が必要なのだと思います。
著者はUAEの男性と結婚し、UAEで5人の子どもの子育てをしました。ですから、UAEの学校生活の様子も語られるのですが、その試験の厳重さは、日本をはるかに上回っています。
UAEの人口は900万人。ところが、UAEの国民はその1割強の96万人。外国人が圧倒的多数を占めている。
UAEの国と国民に見習いたいことは、人を見る眼と寛容さ。
旅人は3日間は無条件に親切にされる。そして、そのあいだに人間を見抜かれる。
UAEの人が、人間を見る眼は非常に怜悧(れいり)。外部の人間を簡単に信用するようでは、一族を破滅に導いてしまうという厳しい自然・社会環境を生き抜いてきた人々である。
イスラムの国では、コーラン(クルアーン)朗誦を省略する儀式(儀典)はありえない。
そして、朗誦のあと、それにあわせた詩が詠まれる。
商店で買い物するとき、女性は決して店内に入らない。
アラブの人々には素晴らしい能力がある。即応能力であり、即戦力である。どんな状況になっても慌てないし騒がない。流動的な状況を見きわめて、すばやく適切な行動をとる。
アラブでは、出来る人間がやる。神様は担げる人間にしか荷を背負わせない。荷を担げる人間は、担げない人間よりよほど幸福だ。
アラブでは、貸しや借りをその場で清算しようとする人はいない。自分の貸しが、将来、自分に、家族に、部族に、いつかどこかで違った形でも戻ってくると考える。
預言者マホメット(ムハンマド)は、世界でもっとも大切にしなければならないのは母親だと説いた。二番目も、三番目も母親で、四番目にやっと父親が出てくる。アラブ・イスラーム世界で母親をないがしろにする人間は、世間からも社会からも、まったく尊敬されない。
イスラームでもっとも立派な人間とされているのは、自分の家族に優しい人。
イスラームでは出家を禁止している。家族とともに生きて、宗教上の義務をつとめることとされている。
UAEでは、自国民については、幼稚園から大学まで、教育は無償。
アラブ世界では、高校の卒業成績はとても重要で、一生涯、履歴書にのせるほど重視される。公立高校の期末試験は国が問題をつくって厳重な管理・監督の下で試験が実施される。採点も三人が担当し、インチキが出来ないシステムである。
アラブ世界では、高校を卒業したり、病気が治ったり、子どもが生まれたとき、資格をとったときには、周囲の人々へ当人がお祝いを出す。もらうのではない。自分の幸運に感謝して、周りの人々も幸福のおすそ分けをする。
アラブ世界に生きる誇り高き人々の生きざまの一端を知ることのできる、興味深い本でした。ぜひ、あなたもご一読ください。
(2016年12月刊。1800円+税)

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