弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年3月 2日

少年事件付添人奮戦記

司法

(霧山昴)
著者 野仲 厚治 、 出版  新科学出版社

「俺を少年院に入れた、あのときの裁判官を、俺は一生許さない」
「俺の言いたいことは何ひとつ、ろくに聞こうともせず、何も言わせてもらえなかった。質問責めでまるで流れ作業のような短い時間だった。まだ、警察での取調べのほうが、少しはマシだった」
少年にここまで言わせる裁判官は、やはり問題ですよね。少し前のことですが、福岡家裁に、少年と話すとき、少年と目をあわせようとしない裁判官がいて、問題になりました。
かと思うと、この本には、40分の予定のところを延々3時間も、じっくり少年と向きあい対話したという裁判官も登場します。
私は、申し訳ありませんが、少年付添事件からは「卒業」して、今はやっていません。時間が許さないというのが理由です。もっぱら若手弁護士にまかせています。ところが、この本の著者は、なんと私と同じ団塊世代なのです。この本を読んで申し訳ないと思いました。
少年事件について、大人の場合とは違って弁護人ではなく、付添人と言います。
少年に付き添うという意味は、少年自身が更生するための努力をする。そうした少年の手助けをすること。それを可能にするには、少年との信頼関係を築くのがもっとも大切。
少年は、ときに家族や学校や社会からつまはじきにされるなどして、心が傷つき、そして心にひがみや悩みを抱えているからこそ、非行に走る。
この本で著者が紹介している少年事件は、普通の、ごくありふれた事件です。マスコミが報道している大事件ではなく、私たちの身近に起きているようなものばかりです。
そして、それだけに、今の日本社会のかかえているひずみがよく見えてきます。
付添人となった弁護士が少年と接見(面会・面談)を重ねていくうちに、何かの拍子に少年本人の口から小さな情報が「こぼれ出る」ことがある。少年のこぼした「小さな出来事」の中に、事件の糸口とか背景や原因が語られることがある。したがって、少年の語る言葉を聞きもらさないことが大切となる。
あるケースでは、少年の自宅を訪問し、少年の部屋を見せてもらったとき、問題が見えてきた。部屋はものの見事に片づいている。母親は少年が学校に行っている間に、部屋の隅々まで掃除をしていた。つまり過干渉の母親。そして、おとなし過ぎる父親という構図である。その少年は、若い女性への強制わいせつを繰り返す中学生だった。少年が学校へ行っているか、学習塾へ行っているか、母親ないし父親が、こっそり少年を尾行していた。
そして、この本では、親が変わると少年も変わる。周囲にあたたかい支援体制ができると、親をあてにせずとも少年は変わっていくこと、その経過が紹介されています。
現代日本の家族の実際を考えさせる本でもありました。
著者は、不整脈という持病をもっておられるようです。無理のないところで、引き続きがんばってください。
(2016年11月刊。1600円+税)

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