弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年10月19日

日本法の舞台裏

司法

(霧山昴)
著者 新堂 幸司(編集代表) 、 出版 商事法務 

立法や制度改革の過程で起きていたことを立法秘話として関係者が語った本です。商事法務の編集長を長くつとめてきた松澤三男氏の古稀記念論文集でもありますが、学者や弁護士、そして官僚など、日本の法曹界で名高い人々が登場している点でも画期的な内容になっています。
法制審議会やら国会対策、そして各種研究会でのエピソードが豊富で、さまざまな法律の立法過程が手にとるように見えてきます。
研究者が発言するとき、わざわざ「個人的見解だ」と断りを入れる人がいるが、不自然な感じを受ける。研究者にとって、個人的見解以外のものが果たして、あるのか。そして、自らの意見を開陳するのは義務というべきこと(伊藤眞)。
法案づくりは、営業と似ている。消費者法を改正しようとするとき、説明すべき業界は限りなく多い。もれがあると、あとあとのプロセスで表面化し、大きな問題になりかねない。(川口康裕)。
閣法とは、内閣の提出する法案のこと。議員提出法案は、議員の所属による提出先議院の違いにより、衆法とか、参法と呼ばれる(村松秀樹)。
日本でも、渉外婚姻等によって夫婦や親子間で氏を異にする家庭も少なくない。それを考えたら、氏を異にすることが家族の一体性を害し、婚姻の意義を薄れさせるという消極論は、現実を見ない、観念論にすぎない(加藤朋寛)。
審議会の意見をまとめる必要があるときには、結論に至る論理をまず展開し、次にそれと異なる意見があったことを具体的に紹介する。責任は結論をまとめた学長がとることになっている(平野正宣)。
新法の名称をどうするか話題になったとき、幹事として出席していたので、「民事再生法」としてはどうかと提案したところ、並居る論客から一蹴された。ところが、法務省の呈示した案の一つに民事再生法があったので、うれしかった。あきらめかけていた迷子の子犬にめぐりあった気分だった。日弁連では大方の賛同を得られた(瀨戸英雄)。
私も、個人版民事再生法の制定過程の議論に少しだけ加わりました。一丁あがり方式の破産免責では救われない債務者が少なくないことから、私が必要に迫られて実践していた方式を踏まえて発言したのです。
民事執行法の制定過程では、午前3時ころに議論を終え、会議室の床に貸布団を敷いて就寝する。庁舎内で泊まると、朝8時半まで眠れるので便利だ。そのうち、会議室の床よりは、じゅうたん敷きの局長室の床が良さそうなので、密かに寝場所を変更した。起床後は、局長の出勤前に臭気取りのために窓を全面開放して部屋を寒気にさらした。帰宅するのは交替で週1日だけ、入浴のため。やせた豚になるよりは、太った豚になるほうがまし、と考えていた(園尾隆司)。
平成8年の新民事訴訟法の制定過程で部会のなかで敢然として発言する気骨ある弁護士がいて、感銘を受けた。ところが、当局のつくった原案に賛成する意見を述べるばかりの弁護士もいた(高橋宏志)。
商事法務研究会は経営法友会の事務局を支えている。そして、法律編集者懇話会が組織されている。
いずれも私の知らないことでした。そんな立法秘話が満載ですから、500頁もの大作になっています。私は、東京から福岡までの帰りの飛行機のなかで、一気に読みとおしました。
(2016年10月刊。4600円+税)

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