弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年10月18日

久保利英明、ロースクール講義

司法

(霧山昴)
著者 久保利 英明 、 出版  日経BP社

 「債権者集会って、面白くないよね」
 「そんなことはないさ。債権者集会は宝の山なんだぜ」
 「えっ、どうして?」
 「だって、債権者集会に来る債権者は、今日は債権者だけど、いつ債務者になるか分らない零細企業なんだ。だから、倒産した企業の代理人となった弁護士がどれくらい頼り甲斐があるか、よく見ている。ビシッと債権者集会を仕切っていたら、自分が倒れたときには、この弁護士に頼もうっていう気になる」
 「なるほど、債権者集会は弁護士にとって依頼者獲得の場でもあるんだね・・・」
 「そう、そのとおり」
 このやりとりは、私も、なるほどと思いました。
 良い準備書面とは、司法修習所で評価される模範答案とは違う。何のために準備書面を書くのか。自己満足のためでなく、依頼者のためでもなく、相手方をやっつけるためでもない。裁判官に、そうか、この事件は、こういう話なのかと、思わず膝を叩いてしまうような書面を書かなければいけない。
話を聞くときは、まずは依頼者の立場に立って、どうしてこういう経緯になったのか、それぞれの時点で依頼者はどういうことを考えてこうしたのか、といった動機や理由を理解してあげることが必要だ。そのうえで、疑問に思ったところをきちんと正面から尋ねて理由を解明していく。そのとき、決して依頼者を責めないこと。
訴訟の見通しを説明するときは、「現時点の情報によれば」と、その時点で得ている情報にもとづく見通しであることを明確にしておく。
 腕のいい弁護士は、よく負ける。勝率の高い弁護士は、負けようのない種類の仕事を数多くこなしているだけのことが多い。勝率の高い弁護士を目ざしても意味はない。
 裁判期日の報告は、きちんと書面で作成して依頼者に渡すのが良い。信頼関係を生む始まりだ。
 予想外の判決をもらうことは弁護士生活30年になってもある。ホント、そうなんですよね。裁判官次第で、判決の勝ち負けが決まる。そのとき、必ずしも論理と事実によらず、好き嫌いの感情論が隠れたベースになっていることが少なくない。
 おそらく先に結論を決め、どの論点でその結論を導くかを決め、それにあわせて事実認定しているのではないかとしか思えない判決文がある。本当に、私も何度となく実感させられました。
人生を元気に、やり甲斐をもって生きることが幸せなのだ。自主性と、能力、そして人間関係が大切だ。
弁護士にとって一番大切なことは、依頼者を、事務所に入ってきたときよりも、事務所のドアを開けて出ていくときのほうが元気にして帰すこと。
これらの指摘(岡田和樹弁護士)に、私もまったく同感です。
 全力では仕事をしない。ふだんから「ゆとり時間」のない状態で、いつも全力疾走していたら、緊急事態に対応できない。つまり自由になる時間をもっておくこと。
 自分のもらう給料の3倍は稼がないと、独立した職業人とは言えない。
 病気するのは、日頃の生活態度にゆるみがあるから。弁護士が風邪をひいて休むなんて、恥ずかしいことともうべき。病気にならないよう、仕事と生活を適切に管理し、定期的な運動や休息をとる。
久保利弁護士には、先日、福岡で講演していただきましたが、そのきっかけがこの書評コーナーによる本の紹介だったと聞きました。うれしいことです。先輩弁護士の培った貴重なノウハウをきちんと受け継ぎ、次に伝達していきたいものです。
 
(2016年8月刊。1800円+税)

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