弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年10月17日

外来種は本当に悪者か?

生物

(霧山昴)
著者  フレッド・ピアス 、 出版  草思社

何が外来種なのか、そう簡単な話ではないということを、この本を読んで知りました。
自然はたえず流動しており、不変の生態系など、ほとんど存在しない。どこに生息しようと、そこは仮の宿でしかなく、あらゆる生態系はたえず変化していて、地質学的な偶発現象の犠牲になる生き物も多々ある。
セイヨウミツバチを、ほとんどのアメリカ人は在来種と信じている。しかし、イギリス人が17世紀にアメリカに巣箱を持ち込んだもの。つまり、意外にも外来種なのである。
スノードロップは我が家の庭にも春に咲いてくれます。これがイギリスの花かと思っていると、16世紀にフランスのブルターニュ地方から園芸植物として入ってきて、すぐに野生化したものなのだ。
熱帯には手つかずの自然がそのまま残っているというのは神話でしかない。実は、どんなに深い密林にも、数千年前から人間の手が入っていた。手つかずの自然というより、放棄された農園なのだ。昔、熱帯雨林でも、偉大な文明が繁栄していた。
自然はぜったいに後戻りしない。前進するのみ。たえず更新される自然に、外来種はいち早く乗り込み、定着する。
外来種の侵入は人間にとって不都合なこともあるが、自然はそうやって再野生化を進行させている。それが、ニュー・ワイルドということなのだ。
私たちの素朴な思い込みは、案外まちがっているということのようです。
たとえば、ひところセイタカアワダチソウが危険な外来種として日本全国で話題となり、躍起になって、その絶滅を目ざしていましたよね。ところが、今では、ほそぼそと生き残るだけで、かつての勢いはどこにも認められません。それは、ひところの絶滅運動の成果ではなく、自滅システムが作用したからのようです。
先日、わが家の庭に固くなった古パンをまいていると、真っ先に見つけてやってきたカササギを三羽の黒光りのする太いカラスが追い払ってしまいました。このカササギは朝鮮半島からの外来種とされていますよね。ところが、ヨーロッパに行くと、列車の車窓から田んぼにカササギを普通によく見かけます。自然って、偶然と必然が交互に起きるものでもあるのですね・・・。
(2016年8月刊。1800円+税)

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