弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年9月16日

秘密解除・ロッキード事件

社会

(霧山昴)
著者  奥山 俊宏 、 出版  岩波書店

1976年7月27日、現職の総理大臣、田中角栄が逮捕された。
私が弁護士になって2年目の夏のことです。当時、横浜弁護士会に所属していた私は、この日、たまたま東京地裁に行っていました。騒然とした雰囲気に何事かと驚いた記憶があります。あとでテレビを見ると、田中角栄を逮捕・連行していた検察官は横浜修習のときの指導教官だった松田昇検事でした
 なぜ田中角栄が逮捕されたのか。日中国交回復を独断ですすめるなど、アメリカの政策に逆らったからだという見方がありますが、この本は発掘されたアメリカ政府の内部資料をもとに、そうではなかったとしています。
とりわけキッシンジャーから田中角栄は人格的に嫌われていたようです。
キッシンジャーというと、切れ者のユダヤ人学者、外交官として定評がありますが、同時にキッシンジャーは、チリのアジェンデ大統領をクーデターで倒して死に追いやった張本人の一人でもあります。今度、『チリの闘い』という映画が公開されるそうなので、私もぜひみたいと考えています。
なぜ田中角栄がアメリカ政府のトップから嫌われたのか。それは、田中の政策というより、田中のふるまい、言動が原因だった。田中角栄は政治的に微妙な問題もふくめて、あることないことを織りまぜて報道機関に情報を流してしまう。そして、右翼の児玉誉志夫とのつながり。児玉誉志夫は、第二次世界大戦でアメリカの敵だった日本人のなかでも最悪の敵なので、許すことが出来なかった。そんな児玉を通じて日本の政界にお金がアメリカから流れたというのが、ワシントンの人々にとってショックだった。
アメリカは日航と全日空に民間の飛行機を買わせるだけでなく、自衛隊に軍用機を買わせようとしていた。しかし、田中角栄のほうは逮捕、立件されたが、ダグラク・グラマン事件に関する元防衛庁長官の松野から5億円を受けとったのは時効期間がすぎていて、立件されなかった。
アメリカは全世界に暴力的に君臨しようとする野蛮きわまりない国だと私は考えていますが、同時に、アメリカの政治は一定期間がすぎると公文書が公開され、何が起きていたのか、かなり判明する仕組みになっていることについて、私は高く評価します。それに、先日から、アメリカの大統領候補の選挙運動のなかで、民主的社会主義者を自称するサンダース氏が大健闘したアメリカは、本当に頼もしいとも考えています。それにしても、力に頼る政治の愚かさに、もっとアメリカ人も日本人も気づいてほしいものです。
田中角栄とロッキード事件がアメリカの政治の動向と、いかに関わっていたかを知ることのできる貴重な本だと思いました。
(2016年9月刊。1900円+税)

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