弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年2月19日

チェルノブイリの祈り

ロシア

(霧山昴)
著者 スベトラーナ・アレクシェービッチ 、 出版  岩波現代文庫

 著者は私と同世代のロシアの作家です。2015年のノーベル文学賞を受賞しています。著者による『戦争は女の顔をしていない』(群像社)は、このコーナーでも紹介しましたが、涙を流さずには読めない傑作です。まだ読んでいない人には強く一読をおすすめします。
 チェルノブイリの事故のあと、その収拾作業にあたった消防士はまもなく大半の人が亡くなっています。その遺体は特別扱いです。遺体は放射能が強いので、特殊な方法でモスクワの墓地に埋葬される。亜鉛の棺に納め、ハンダづけをし、上にコンクリート板がのせられる。放射線症病棟に14日。14日で人は死んでしまう。生まれた赤ちゃんは肝硬変。肝臓に28レントゲン。それに、先天性の心臓欠陥もあった。
 チェルノブイリは、戦争に輪をかけた戦争だ。人には、どこにも救いがない。大地のうえにも、水のなかにも、空の上にも・・・。
 牛乳を飲んじゃだめ。豆もだめ。キノコもベリーも禁止されちまった。肉は3時間、水に漬けておく。ジャガイモは2度、湯でこぼせ。ここの水も飲んだらダメ。
 ぼくらは口外しないという念書をとられた。だから沈黙を守った。大量の放射線をあびた。バケツで黒鉛を引きずった。1万レントゲン。普通のコップで黒鉛をかき集めた。友だちは死ぬとき、むくんで腫れた。石炭のように真っ黒になり、やせこけて子どものように小さくなって死んだ。
 赤ちゃんが生まれた。でも、身体の穴という穴はみなふさがっていて、開いているのは両目だけ。多数の複合以上あり。肛門無形性。女児なのに膣無形成、左腎無形性。おしっこも、うんちも出るところがなく、腎臓は1個だけ。それでも、この子は、生後2日目、にっこりほほ笑んだ。生命力のすごさを感じますが、本当に悲惨ですね。言葉もありません。
 事故処理作業に投入されたのは、全部で210部隊、およそ34万人。屋上を片づけた連中は地獄を味わうことになった。鉛のエプロンが支給されていたが、放射線は下から来た。下は防護されていなかった。
 チェルノブイリ原発(原子力発電所)で事故が起きたのは今から25年以上も前の1986年4月26日。人口1000万人の小国ベラルーシにとって、事故は国民的な惨禍となった。チェルノブイリのあと、485の村や町を失った。うち70の村や町は永久に土のなかに埋められた。今日、ベラルーシの5人に1人が汚染された地域に住んでいる。その210万人のうち70万人が子どもだ。
 福島第一原発事故は今も収拾のメドがまったくたっていないのに、安倍政権は強引に原発再稼働をすすめています。そして、海外へ原発を輸出しようとすらしています。無責任きわまりありません。いったい事故が起きたとき、誰がどうやって責任をとるというのでしょうか。政権党である自民党・公明党の政治家にとって、今さえよければ、それも目先の今さえ利権が得られたら、すべて良しということのようです。残念です。子や孫そして、ずっとずっとこの日本列島に住んでいくはずの人々のことなんか、どうでもいいというのです。恐ろしい人たちです。それこそ神罰があたるのではないでしょうか・・・。
 チェルノブイリ事故は、日本人の私たちにとって決して対岸の火事ではありません。


                           (2016年1月刊。1040円+税)

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