弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年12月11日

ホンダ・イノベーションの神髄

社会

著者   小林 三郎 、 出版   日経BP社 

 この本を読んで、車のエアバッグは火薬によって膨らまされていることを知りました。そして、高圧の窒素ガスを使うよりも火薬のほうがより安全だというのです。これには驚きました。
高圧ガスは圧縮されているので、物理的に常に高いエネルギーを保持した状態にある。それが故障で開放されたら重大な事態を生む。ところが、火薬は火が付かない限りエネルギーはもっていない。これなら暴発に至る故障モードが少ないし、点検作業も安全にできる。火薬のほうが、ともかく故障しにくい。エアバッグのような安全装置は、万一の衝突のときに絶対故障しないのが絶対の価値なのだ。その仕組みは、火薬が爆発的に燃焼して、大量の窒素ガスを発生させ、エアバッグを瞬時に膨張させる。
 そして、エアバッグは故障率100万分の1の技術を実現した。いやあ、たいしたものです。エアバッグの設計における基本は、システムを可能な限りシンプルにしておくこと。そのためには部品数を最小限に抑え、接続箇所も極力少なくする。
 部品の不良が発生しても、トレーサビリティーのシステムによってその部品を追跡できるようにしておけば、被害は最小限におさえられる。
 成果主義をとり入れたらイノベーションは全部止まってしまう。
イノベーションは、基本的に成功か失敗だ。しかも、10年かけたうえで失敗に終わることも珍しくない。イノベーションには、記憶力と論理分析力にこりかたまった人材は不適だ。それらもある程度は必要だが、それだけではダメ。たとえ何回失敗しても、長い時間がかかっても絶対価値の実現に挑戦し続ける人こそ、イノベーションに向いている。今の日本の教育は、こうした人を排除する方向にある。だから、ホンダでは学歴無用だ。
 イノベーションには掟がある。40歳を過ぎても不別のある、でも頭の固くなりつつある人は、自分でイノベーションをやろうとしてはならない。イノベーション力のある若い人に考えさせる。
 ところが、若い人は知識と経験が少ないので、提案の大半は役に立たない。そこで、技術の価値や実現可能性を見抜くのが40歳を過ぎたベテランの非常に重要な役割だ。
 とても新鮮な刺激にみちたビジネス書でした。成果主義でうまくいった会社なんてないとよく言われますよね。なるほど、と思いました。
(2012年7月刊。1800円+税)

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