弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年12月12日

原発・正力・CIA

社会

著者  有馬 哲夫 、 出版  新潮新書

読売新聞は、日本最大の発行部数を誇る新聞ですが、同時に改憲を積極的に主張するなど露骨に財界、右より姿勢を示しています。とても不偏、不党とは言えない紙面になっています。
その社主であった正力松太郎は、CIAの日本エージェントとして、ポダムという暗号名までついていました。CIAとは持ちつ持たれつの関係だったようです。
正力松太郎は総理大臣を目ざしていた。そのためには政治目標が必要だった。それが原子力だった。原子力を手に入れたら、手っ取り早く財界と政界に影響力をもつことができる。いや、直接、政治資金と派閥が手に入るという点で、新聞以上の切り札だった。
 アメリカの援助を背景に原子力発電所を建設し、数年以内に営業運転まで持っていけば、政治キャリアのほとんどない正力でも総理大臣になるのも夢ではない。原子力平和利用推進は、正力にとってまさしく夢を現実にする魔法の切り札だった。
 アメリカの在日情報機関は、第五福竜丸事件のあとに澎湃とわき起こった原水禁・反米運動によって窮地に立たされた。アメリカによる日本占領の終結以来、最大の心理作戦上の大敗北であった。このため、米国情報機関は右よりの読売新聞グループを頼りにした。
 CIA文書には次のようになっている。以下の要件で、ポダム(正力松太郎)の使用を許可する。メディアの分野で、日本の政治的な出来事や傾向、メディアや進部員の関係者についての情報を得るための使用。
うひゃあ、まさしく正力松太郎と読売新聞はCIAの思うままに操られていたのですね。
 正力のメディア帝国は、日本でもっとも中央集権的で、したがってもっともコントロールしやすく、大衆の心をかきたてるという点では、もっとも影響力が強い。
 これもCIA文書の言葉です。
原子力平和利用博覧会が大成功し、正力の態度がいよいよ尊大になると、CIAは正力に対する警戒を強め、関係を見直そうと動きが出ていた。
 そして、ついに正力とCIAは対決するに至ったのです。
 正力は、これまでアメリカの頼みをやめ、イギリスにパートナーを換えることを決断した。CIA文書は、アメリカ側との交渉が決裂したことが、正力をイギリス製の原子炉の購入に走らせたと分析している。そのころ、読売新聞はアメリカの外交に批判的な記事を連続してのせていた。アメリカ型の原発を日本に導入した正力松太郎にまつわる裏話が満載の本でした。
 3.11の前に書かれていることもあって、原発の恐ろしさについてはまったく触れられていません。その目から見直す必要があると思いました。
 それにしても、読売新聞ってCIAにずっと操作されていたような新聞なんですね。どうりで、アメリカべったりというのもよく理解できます。でも、嫌ですね。やっぱり、マスコミには日本の自主性を主張してほしいものですよ。
(2011年6月刊。720円+税)

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