弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年1月24日

ヤクザと原発

社会

著者   鈴木 智彦 、 出版   文芸春秋

 この本を読みながら、本当に原子力発電所が安全だというのなら、東京電力は下請まかせなんかにせず、すべての作業を自社の正社員のみでするべきなんじゃないかと思いました。保守・点検そして清掃・片付など一切の作業です。だって、東電が払った日当は最大1日10万円ですよ。今でも、1日に2~3万円のようです。東電の社員の給料がいくら高いといっても、1ヵ月300万円とか40万円の人ばかりではないでしょう。
 ないはずの危険な汚れた仕事を下請に出すから、この本が指摘するような暴力団のしのぎ(稼ぎ)の場になってしまっているわけです。
 本当は危険だから東電の社員にはやらせられないのだというのだったら、なんで同じ日本人、人間なのに下請の社員にそんな仕事をさせるのでしょうか。絶対おかしいと私は思います。
 原発にかかわる仕事は電力会社の社員、それも一定の資格ある社員に限る。国会はこんな法律を制定すべきではないでしょうか。
この本の著者は、ヤクザ専門週刊誌の編集長も務めたこのとある暴力団ウォッチングのジャーナリストです。福島第一原発の事故のあと、そこに潜入して労働したという体験記なので、まさに身体をはっています。
 しかし、そうは言っても「フクシマ50人」だけでなく、実際には、そこに数千人の労働者が今も現に作業しているのです。そのこと自体には本当に頭が下がります。でも、現場にイレズミ男、現役の暴力団組員もまじっていると聞くと、複雑な気分になります。もう、これまでみたいな、いいかげんな仕事はしてほしくないなというのと、暴力団の荒稼ぎの場になってほしくないということです。
どこの原発にもヤクザがいると思って間違いない。原発には、薬食って仕事やっているのが一杯いたよ。時間がたつのが早いし、怖いもんなしになるから、この仕事に向いているんだよ。
 電力会社は一応の注意はするけれど、それは建て前なんだから。なにかあったとき、私たちはきちんと指導していましたって、そう言いたいだけ。実際のところは、みんな下請まかせ。
バブルの時期は、作業員1人について月100万円が支給された。40万円の月給を払っても60万円が仲介した暴力団の懐に落ちる。いいもうけになる。
 暴力団が原発の深くまで根を張っていることは間違いない。
 原発事故直後は、日当が5~20万円が相場だった。なかには50万円という組もあった。
 条件は40歳以上、65歳以下の男性。ただし、住民票が必要。
東電は事故直後、下請に「死んでもいい人間を用意してくれ」と言ったという。
 作業員の多くは放能に関する専門的な知識をもっておらず、毎日のニュースすら知らない情報弱者である。自分がどれほど危険な作業をしているか漠然としか理解していないうえ、新たな情報も得られず、慣れが恐怖心を鈍化させてしまう。
 福島第一原発がたて続けに水素爆発を起こしたとき、多くの作業員はオンタイムで被曝数値のわかるデジタル線量計をもっていなかった。
 フクシマ50の中に暴力団員が数人いるのは、ほぼ事実と考えてよい。
 作業員にとって死に直結する危険は放射能ではなく、熱中症と交通事故だ。
九州の大牟田・荒尾からも作業員が来ていた。
 すべてを包み隠さずに言えば、原発は人間の手に負える代物ではないという結論が出る。そうなると、どこでも原発の再稼働は難しいし、新規原発の建築は中止となる。そのうえ、放射能パニックも起きるから、政府の要請もあって、情報は小出しにせざるを得ない。
 原発の恐ろしさを改めて認識させられる本でした。260頁ほどで、さっと読めますので一読をおすすめします。
(2011年12月刊。1500円+税)

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