弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年4月 2日

タイ 中進国の模索

東南アジア

著者 末廣 昭 、 出版 岩波新書

 タイには一度だけ行ったことがあります。かつて一度も他国の植民地になったことのない安定した王国です。僧侶の多い、微笑みの農業国という印象も受けます。ところが、バンコクに行ってみると、すごい渋滞の国です。
 高層ビルが立ち並んでいて、高架鉄道が走っています。治安は良いので、私も一人で高架鉄道に乗って、シルクの店に出かけたのでした。
 ところがタイは、農業国ではなく、工業国である。輸出額のトップはコメではなく、コンピューター部品なのである。大学生は一握りのエリートではなく、在籍者は180万人にのぼる。増加するストレスに直面して、微笑みを失った国になっている。
 1973年に軍事政権が倒れてから2008年末までの35年間に、クーデターが4回、憲法制定が6回、総選挙は14回、政権交代は27回も経験している。首相の平均在任期間は1年半という短さである。 タイは決して政治的に落ち着いた国ではない。黄色シャツは反タクシン勢力、赤色シャツは親タクシン勢力である。この対立を民主主義を推進する勢力と阻害する勢力の対立、王制を守るグループとないがしろにするグループの対立、都市の中間層と農村の貧困層の対立というとうに、国を二分するグループ間の衝立という構図に読みかえるのは適切でない。国民の大多数は黄色にも赤色にも、そのなりふりかまわない実力行使にうんざりしている。
 タクシン元首相は1949年生まれですから、私と同じ団塊世代ということになります。警察中佐でしたが、コンピューターのレンタル事業に乗り出し、またたくまにタイ最大の通信財閥に発展させた。1998年、51歳の若さで首相に就任し、2006年9月のクーデターまで5年8ヶ月、政権を維持した。
タクシン首相による「国の改造」は国王と王室の威信と権威を傷つけ、国軍の人事や国防予算といった軍の聖域を土足で踏み荒らし、官僚を政策決定機構から排除していった。当然、そこに反発と不満を引き起こした。
 タイという国を多角的に分析していて大変分かりやすく読みすすめることができました。
        (2009年8月刊。780円+税)

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