弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年8月25日

バカ親って言うな

社会

著者:尾木直樹、出版社:角川ワンテーマ21新書
 いま問題のモンスターペアレントの謎に挑んだ問題提起の本です。
 小学校の教師が相次いで自殺する事件が起き、その背景にモンスターペアレントがいると指摘される社会の現実があります。いったい何が学校と家庭に起きているのか?
 モンスターペアレントとよばれる保護者が増えてきたのは古いことではなく、2000年代に入ってからのこと。かつては、クレーマー親とよばれていた。クレーマーについては、権利主張タイプと不正糾弾タイプの2つがあり、その主張には理解できるところがあった。ところが、いまや、ある保護者が何かのクレームをつけてきたときには、その正当性があるか否によらず、ほかの保護者がクレーマーの意見に同調して学校や教師を非難するケースが増えている。
 モンスターペアレントが学校や教師に突きつけてくる無理難題には想像を絶するものがあり、どんな場面で何を言い出すのか、まったく予想できない。
 モンスターペアレントの5つのタイプ。
1 我が子中心型
2 ネグレクト(育児放棄)型
3 ノーモラル型
  深夜でも早朝でも、教師に電話をかける。教師からお金を借りようとする。
4 学校依存型
  毎朝、子どもを起こしに家へ来てほしい。体操着は学校で洗ってほしい。こんなことを教師に要求する。
5 権利主張型
 このほか、なんでも「いじめ」にしたがるモンスター、お節介モンスター、子どもの言うことのみ信じるモンスター、文書でクレームをつけてくるモンスター、凶器で脅したり、暴力団をちらつかせてくる暴力・恐喝モンスター。そして、一見すると常識的な人が想像を絶する非常識な脅しをかけるケースが増えている。
 子どもの学力が世界一のフィンランドでは、自分のつきたい仕事に教師がずっと第一位を占めている。教員養成大学の倍率も10倍を切ったことがない。ところが、日本では 2000年度は4倍にまで下がった。うへーっ、これは困りましたね、今の大分の汚職事件は全国どこにでもあることで、氷山の一角にすぎないと思いますが、これでは日本という国の将来はありません。道路や橋など、ゼネコンと自民党政治家のための大型公共事業にばかりお金をつぎこみ、人材養成のお金を削ってきた日本政治の積年の誤りが今になって劇的な形であらわれています。
 格差社会の進行とモンスターペアレントの急増と見事に一致している。というのは、格差社会は地域の人々の連帯意識を破壊し、一人ひとりが地域の中で攻撃的な生活を営んでいるからである。今は、地域の人的なつながりのなかで大人として、親として成長していくことが困難になっている。
 学校を単なるサービス機関としてみる風潮が強まっている。保護者にとって、学校はデパートと変わらない存在になった。
 うひゃー、ま、まさか、と思いました。この指摘こそ、この本のなかで私がもっともショックを受けたところです。
 学校を「託児所」か「なんでも屋」のように考えている保護者がいる。「過剰サービス」を受けるのに慣れた人は、自分の要望はおよそ通るものだという感覚をもっている。そして、今の学校は、保護者にとって商品と変わらない存在になっている。
 そのうえ、マスコミの報道による「後押し」があって、教員はバッシングしていい存在だというムードがある。
 社会全体にストレスがみちみちているので、日頃からストレスをためている人間にとって、好き勝手な要望を押しつけられる相手がいたら、その絶好のはけ口となる。相手に言いたい放題いって、うさ晴らしができる。しかも、教師は基本的に反撃してこない人種だという安心感がある。最初の一歩さえ踏み出してしまうと、その後の攻撃は、とくに過激になりやすい。
 しかも、攻撃される教師をフォローしてくれる存在がいなくなった。校長や教頭は「穏便にすませるように」としか言わないように変質してしまった。
 親自身が幼い。大人として自立していない。
 モンスターペアレント問題は、単に学校内の問題ではなく、日本社会全体の危機を象徴する問題である。今や教育の世界は流動化し、見事に二極化しつつある。平和で安定し、みんな仲良く、みんな平等という、かつての学校理念から、階層化というもっとも激しい津波が押し寄せる流動的世界へと一変した。財力と学力によって、勝ち組にも負け組にもニートにもなれる時代である。
 日本の心であった相互扶助の精神や他者への優しいまなざし、思いやり、心づかいなど、モラルと品格そのものをメルトダウンさせてしまった。
 教育の市場化は、そのまま日本的品格やモラルの崩壊に直結している。競争と結果責任を取ることを突きつけられたら、誰でも他者にはかまっていられず、厳しい姿勢で生きるように変化してしまう。今や誰でもがモンスターペアレント化するような日本になってしまった。病んだ日本社会が生んだモンスターペアレントです。金もうけと経済効率最優先の御手洗・日本経団連ばりの政策を見直すときです。決して遅すぎることはありません。
 南フランスのエクサンプロヴァンスに行ってきました。ここは私がまだ40歳前半のころ、3週間滞在したことのある町です。外国人向けフランス語集中講座を受講したのでした。大学の寮に寝泊まりしながら、午前中は授業を受け、午後からはミラボー大通りをぶらぶら散策したり、映画をみたりしていました。ここからセザンヌのよく描いたサント・ヴィクトワール山がよく見えます。
(2008年4月刊。686円+税)

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