弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年7月10日

限界自治・夕張検証

社会

著者:読売新聞夕張支局、出版社:悟桐書院
 夕張支局の女性記者が追った600日、というサブ・タイトルのついた本です。夕張市が破綻していく実情を現地からリポートしていますので、迫力があります。
 ただ、国や企業の責任を追及しようとしていないのが気になりました。そこは、「右派」ヨミウリの弱点なのでしょうか・・・。
 ゆうばり、という地名は、アイヌ語のユーパロ、つまり鉱泉の湧き出るところ、に由来する。夕張市は、南北に細長い。そうなんです。一度だけ行ったことがある私も、奇妙な町だと思いました。奥行きはあるけれど、ほとんど幅のない町なのです。
 夕張市の65歳以上の高齢化率は42%。これは全国トップだ。夕張市は最盛期の1960年には人口11万7000人だった。市内に17の炭鉱があり、1万6000人の労働者が働いていた。最後の炭鉱となった三菱南大夕張炭鉱が閉山したのは1990年のこと。
 夕張市が財政再建団体になったのは、福岡県の赤池町が1992年に指定を受けてから、2番目。赤池町の負債は32億円で、2000年度に再建を終了した。ところが、夕張市の負債はケタ違いの何百億円にのぼる。
 ゆうばり映画祭が始まったのは1990年のこと。ふるさと創生資金1億円を活用した。それ以来、夕張は映画の町として知られるようになった。毎年の運営費は1億円。市が7割を補助した。中田元市長の観光政策のもので、1991年に観光客が1991年に230万人も来た。しかし、それがピークで、あとは減るばかり。
 1979年度から2005年度にかけて、夕張市の財政破綻の要因となった観光事業に施設整備費だけで150億円近くが投じられた。そのうち、国の補助が22億円ほどあった。そうなんです。夕張市の財政破綻に国も手を貸していたのです。
 夕張市は財政再建団体になるまで、財政のつじつまあわせをしてきていたから、市の広報誌で発表される決算は、ずっと黒字だった。市民はだまされ続けたのである。
 夕張市の6400世帯の半分近くは公営住宅に住み、民間アパートは少ない。4000戸の公営住宅の1300戸が空き家だ。公営住宅の多い夕張市では、不動産屋は商売にならないので、市内には不動産屋がない。ひえーっ、これには、さすがの私も驚きました。町にコンビニがないというのと同じほどのショックです。もっとも近い隣の地区のコンビニまで来るまで15分かかるという地区もあります。うひゃー、ですね。
 夕張市の再建のバロメーターが人件費削減の割合だった。それが、やる気を示すバロメーターとなった。目安となったのが島根県海士(あま)町の削減率28%だった。
 夕張市は、12人の部長、11人の次長の全員が退職した。32人いる課長職も、3人しか残らなかった。管理職のほぼ全員がやめて、行政機能は維持できるのか?
 夕張市と職員260人を126人と半減した。管理職57人を15人に減らした。夕張市長の給料は86万円から25万円と、全国最低になった。
 市議会は18人の定数を9人とした。議員報酬は42%減の18万円となった。これまた全国最低だ。
 1960年ころ、夕張市内にあった小学校は22校で、中学校は9校あり、3万人いた。現在は、わずか600人でしかない。
 15歳未満の年少人口は7%。これまた全国の市のなかで最低。年間出生数は50人。市営住宅に入居すると4000世帯のうち、家賃を滞納する世帯が20%をこえる。3億3400万円もの滞納額となっている。
 うひゃあ、夕張市の再建って、これでは本当に大変だなあ、とつくづく思いました。
(2008年3月刊。1600円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー