弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年7月 9日

ハロー、僕は生きてるよ

アメリカ

著者:カーシム・トゥルキ、出版社:大月書店
 イラク戦争が始まったのは、私が弁護士会の役員をしていたときですから、もう5年以上前のことになります。アメリカ軍がイラクに侵入する直前に弁護士会の役員としてベルリンに飛びました。9.11のあとでしたから、どんなテロがあるかも分からないと脅され、決死の覚悟でした。国際刑事裁判所を国際司法裁判所とは別に設立する必要がある。そのとき、弁護士は弁護人としての職責を果たすために何をするべきか、という国際会議でした。日本のなかにも東澤靖弁護士のように、ほとんど手弁当で国際司法(刑事)分野で活躍していることを知り、頭の下がる思いをしたことでした。
 この本は、元イラク兵だった著者が高遠菜穂子さん(例の人質事件の1人であり、多くの心ない日本人からひどいバッシングを受けた人です)たちと連携しながら、イラクの平和のために非暴力主義でがんばっている様子を伝えるブログを活字にしたものです。
 先日、アメリカ映画『告発のとき』を見ました。小さな小さな映画館でした。イラク戦争の戦場に駆り出されたアメリカの青年の心身がボロボロになっていることが見事に描かれていました。人を殺すことが何でもなくなったとき、それは仲間同士でも殺しあいがありうるという衝撃的な事件をふまえて、アメリカ軍を告発する映画です。これ以上は書けませんが、一見の価値はあると思いますので、ぜひ映画館へ足を運んでください。イラクでアメリカ軍がしている非道な行状も画面で少し紹介されます。やはり、戦争は狂気を生み出します。
 この本は、そんな状況をイラク人の立場から描いています。毎日毎日、罪なき市民がアメリカ兵や、その下のイラク兵に殺されています。その仇をうつためにテロリストを志願する人を、どうして止められるでしょうか。
 ぼくたちにとっての唯一の敵は、アメリカ軍戦車とアメリカの狙撃兵なんだ。みんな、どこが安全な通り道か分かっているし、危険を避ける術も身につけている。ところが、バグダッドでは安全なはずの場所で犯罪が多発している。犯罪者はやりたい放題。しかも、警察が犯罪者と収入を分かちあっている。
 アメリカ軍は、ザルカウィのグループはアンバール州に潜伏していると言って掃討作戦をしている。そういうことにしておけば、アメリカ軍がいくらアンバール州の住民を殺したり、建物を破壊しても誰も気にしない。アメリカ軍がやっていることからイラク人の目をそらすいい方法だ。占領に抵抗するラマディの人々を殺しているなんて絶対に言えないから、言い訳が必要だ。だから、ザルカウィというテロリストがアンバール州にいることになっている。なーるほど、ですね。そういうことなんですね。日本の警察が暴力団とか反共右翼を泳がす理由と同じですね。ときどき世間の耳目を集めるような悪いことをやらせたりする理由もよく判ります。
 このように、殺し、殺されが日常化しているもとで育つ子どもたちの心はどうなんでしょうか。未来は子どもたちのものです。そのとき、家族や友人が殺し、殺されて平然としていいなんてことを身につけたとしたら、日本はそれこそ、お先まっ暗でしょう。
 日本のマスコミがアメリカ軍発表という「大本営」発表と同じことしかしない、つまり現地のイラク人民衆の立場からの情報発信をしていないとき、この本はイラクに住むイラクの人々の実感の一端をうかがい知る貴重な本だと思います。
 日曜日、ようやく梅雨が明けましたので、庭に出て、少し手入れをしました。雨が降り続いたためか、ライラックやサザンカの木が枯れていました。グラジオラスが終わりかけています。ヒマワリはまだ咲きません。半畳分を掘り上げ、コンポストの枯れ草や生ごみを埋め、その上に日々草やカスミ草などを植えました。サボテンもたくさんの子をつくって親は死にかけていますので、整理してやらなければいけません。代替わりの季節です。何ごとにも、何物にも寿命があります。諸行無常の響きあり、です。蛇もチョロチョロしていますので、用心しながら庭仕事をしました。といっても、蛇は、我が家の守り神様です。
(2008年4月刊。1500円+税)

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