弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2008年7月 9日

市民と司法の架け橋を目ざして

司法

著者:本林 徹(編)、出版社:日本評論社
 日本司法支援センター(法テラス)のスタッフ弁護士は現在100人ほどが全国で活躍しています。2006年10月の第1期生は24人。そのうち13人が手記を載せています。それがすごいんです。若さ一杯でがんばっています。心から拍手を送ります。
 埼玉の法テラスで活動している谷口太規弁護士は先日、福岡でも講演しましたが、聴いた福岡の弁護士は口々に感動した、実にいい仕事をしていると評価していました。
 埼玉は東京のすぐ近く。弁護士も400人からいる。しかし、そこでも十分なリーガルアクセスは保障されていない。そこで、谷口弁護士は、ケースワーカーとともに、ホームレスの人たちの自立支援宿泊施設へ無料法律相談会に出かけた。すごいことです。むかし、私の学生のころ、セツルメント法律相談部が似たような活動をしていました。今は、それを税金をつかって弁護士がやっているのです。
 ホームレスになった原因が借金をかかえていることにあった人の相談を受け、谷口弁護士が計算してみたら、なんと800万円もの過払いだったことが判明し、東北にいる妻子のいるところに戻ることができた、なんて話も紹介されています。
 もう一つは、高齢者の問題です。父親の年金を精神的な病いをもつ娘がつかいこんでいたというケースです。いやはや、こんなときには弁護士ひとりではどうしようもありませんよね。みんな年齢(とし)をとっていくわけですけど、年寄りに冷たい社会ですね。
 壱岐の浦崎寛泰弁護士も頑張っています。
 ある寒い冬の土曜日の早朝、携帯電話で目が覚めた。土日、祝日にかかわらず、365日「当番」弁護士だ。呼ばれたら当番弁護士として出動せざるをえない。ひき逃げで捕まった若い女性。身に覚えはなく、すぐに釈放された。しかし、マスコミに報道されたら職を失う危険は強い。そこで、地元マスコミにFAXを送って、事情を話す。なんとか実名報道をくい止め、失職を免れることができた。
 な、なーるほど、ですね。やっぱり離島にも身近な弁護士が必要だということがよく分かります。浦崎弁護士は1年半で450件の相談を受け、うち250件は多重債務にかかわるもの。壱岐では、多重債務と弁護士がイメージとして結びついていなかった。まあ、これは全国どこでも、ほとんど同じことなのでしょう・・・。
 高知県須崎市にある法テラスで働く山口剛史弁護士の話もすごいのです。一家4人全員に知的障害が認められ、周囲からいいカモにされてきた。この状況をネットワークによって、なんとか救済できたといいます。
 支援を必要とする人は、地域で孤立している。家族と公的機関のほかには支援者がいないというのが残念ながら地方の実情である。山口弁護士は、このように指摘しています。うむむ、たしかにそうなのです。
 人口6万人の佐渡島に弁護士が1人しかいなかった。2人目の弁護士となったスタッフ弁護士は富田さとこ弁護士。開設して1年たって、相談を受けるのは3週間待ちの状態。だから仕事の優先順位をつけざるをえない。第一に借金、第二に高齢者。いやあ、これって、よく分かります。ホント、そうなんですよね。たしかにこの順番でしょうね。
 鹿児島の鹿屋にできた法テラスの藤井靖志弁護士は1年間に811件の相談を受け、 334件を受任した。今も月に40件の相談、15件を受任している。すごーい。すごいです。よくまわりますね。身体をこわさないようにしてくださいね。
 鳥取県の倉吉市の5人目の弁護士となった一藤剛志弁護士も似たような状況です。1年間に受けた相談が350件。債務整理が6割、離婚・相続などの家事が2割。受任したのは150件。シングルマザーにからむ事件が多いという特徴がある。
 一藤弁護士は自己破産事件で私と同じやり方をしているようです。つまり、自己破産の申立自体は可能でも、その後の収入を確保できる見通しが立たないうちは、申立てを先延ばしにして依頼者の生活状況を見守ったほうがよい場合がある。そうなんです。自己破産申立は早ければいいというのは幻想でしかありません。私は、以前から、それを「一丁あがり方式」と呼んで揶揄してきました。
 旭川の神山昌子弁護士は暴力団が背後にいる事件の処理の難しさを強調しています。そうなんです。これは実に難しいのです。一体、なんのために何をやったのか、あとで苦い思いをすることもしばしばです。それにしても、旭山動物園で有名な旭川に暴力団が根づいているというのは意外でした。旭川って何か利権があるのでしょうか・・・?
 京都の藤浦龍治弁護士の取り組みには頭が下がりました。刑務所まで出かけて、出張法律相談をし、受任して成果をあげているというのです。
 また、埼玉の村木一郎弁護士が国選刑事専門弁護士としてがんばっている状況も紹介されています。なんと、毎月10件というペースで国選弁護事件を引き受けて担当しているというのです。信じられません。
 茨城県下妻市の萩原慎二弁護士も常時10件ほどの国選弁護事件を抱えているが、そのうち4件は外国人が被告人だということです。その苦労たるや、莫大なものがあると思います。
 こうやって法テラスのスタッフ弁護士の奮闘記を読むと、法テラスが法務省のまわし者だなどと非難する人に、ぜひ実情を知ってほしいとつくづく思ったことでした。
 とてもいい本です。弁護士の原点を教えてくれました。ありがとうございます。
(2008年6月刊。1500円+税)

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