弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年11月30日

新・学歴社会がはじまる

社会

著者:尾木直樹、出版社:青灯社
 「格差が出るのは悪いこととは思っていない。能力のある者が努力すれば報われる社会良しとする者は多い」
 「どの時代にも成功する人としない人がいる。貧困層を少なくする対策と同時に、成功者をねたむ風潮、能力ある者の足を引っぱる風潮を慎んでいかないと社会の発展はない」
 これらは小泉前首相の国会答弁(2006年2月1日)です。
 「国際化の中で、能力や才能、努力によって生まれる格差は、むしろ称賛すべきことだ」
 これは日本経団連の御手洗会長(キャノン会長)の発言です。
 これらの言葉は、果たして本当だろうかと著者は疑問を投げかけます。
 公立幼稚園では年に24万円弱ですむのに、私立幼稚園は51万円ほどかかる。公立中学が47万円なのに対して私立中学だと127万円。公立高校は52万円なのに私立高校だと103万円。いずれも2倍以上の格差がある。これは親の経済力による。
 最近、東京に行くたびに超高級ホテルがふえています。それらのホテルは中クラスの部屋で1泊10万円だといいます。高級旅館で1泊2食付き4万円というのは聞きますが、素泊まりで10万円する部屋が、そこでは中クラスというのです。1泊40万円とか50万円の部屋に泊まる人が増えているということです。日本でもスーパーリッチ層が増大しているわけです。
 その一方で、就学援助を受ける人が急増しています。1995年度に77万人、   2000年度には98万人だったのが、2004年度はなんと134万人近くにまで増えた。そのうち生活保護世帯に準ずる世帯が121万人ほど。大阪の受給率は28%、東京でも25%に近い。貧困層の増大はすごいものです。
 トヨタ自動車など中部財界がつくった中・高一貫全寮制男子校は年間の学費と寮費で 330万円かかる。6年間だから総額1800万円にもなる。そんな私立校に国の手厚い補助がなされている。
 公立で中高一貫校がふえている。全国に公立120校もある。私立50校、国立3校あるので、合計173校あって、さらに首都圏では17校の開校が予定されている。
 果たして中高一貫校はそれほど良いものなのでしょうか。思春期に親と離れて生活して将来、本当に心優しい人間になるのでしょうか。私は心配です。
 著者は、教える量を多くし、難解にすればするほど学力が向上するという考えは根拠のない錯覚だと主張しています。その証拠としてあげられているのが、日本人が大人になってから学力が身についていないことが国際比較で判明したというのです。
 受験戦争による暗記型、トレーニング中心の「学校知」をどれだけ詰めこんでも、生きる力としての学力につながっていない。大人になると学力が世界最下位に落ちこんでいる。
 学力は競争させるほど向上する。授業時間数を増やせば学力が上がる。いずれも単なる錯覚である。
 「フリーターとかニートとか、私に言わせりゃごくつぶしだ、こんなものは」
 こんな偉そうなことを臆面もなく言ってのけたのは、あの石原東京都知事です(2006年3月 14日、都議会)。いったい自分を何様だと思っているのでしょうね。
 経済格差、学力格差、学歴格差、学校内のコース格差、学校間格差、出自格差、文化格差、親の学歴格差、習熟度別格差、教員格差。これらが地域間格差、情報格差、男女格差、企業間格差などとからみながら、複雑に進展し、子どもたちの学力にも反映されている。格差は多様ではあるが、大切なことは、どの格差も人為的所作のなせる業であり、けっして自然現象というものではない。
 そうなんですよね。私の出身高校はそれなりの昔から伝統のある「名門高校」でしたが、いつのまにか低いランクに落とされていました。学区が事実上撤廃されたため、生徒たちが1時間以上かけても有名高校に通うようになったためです。私は自転車で15分ほどの通学時間でしたが、通学時間に1時間以上もかけるなんて、ムダだと思います。いかがでしょうか。
 格差というと、先日の週刊誌に日本の社長のトップは年収80億円とかいう記事がありました。これって間違ってませんか。その会社のヒラ社員は年収1億円とかもらっているでしょうか。上にばっかり厚いというのは、きっとどこかで破綻すると思います。
(2006年11月刊。1800円+税)

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