弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年3月28日

少年審判制度が変わる

司法

著者:福岡県弁護士会子どもの権利委員会、出版社:商事法務
 全件付添人制度の実証的研究というサブ・タイトルのついた本です。福岡県弁護士会が全国に先駆けて発足させた全件付添人制度の意義を、諸外国との対比もふまえて明らかにした画期的な労作です。
 この全件付添人制度がスタートしたのは2001年2月、春山九州男会長のときでした。春山会長の積極果敢な働きがなければ実現出来なかった偉業です。
 制度発足前の議論の焦点は二つありました。担当弁護士が確保できるのか、収支見通しは大丈夫なのか、という点です。いずれも深刻な議論となりました。
 福岡県弁護士会は国選弁護人の登録率が83%、当番弁護士の登録率も65%と全国的にみて大変高い率を誇っています。そのベースの上に当番付添人の登録率は51%となっています。全国水準をはるかに上まわる高率を誇っています。最近新規に入会してくる会員は全員登録するのが当然という状況です。
 付添人として出動した弁護士には10万円が支払われますが、これは少年の負担はありません(扶助付添人が適用されたとき)。この10万円は、法律扶助協会本部から3万円、日弁連の当番弁護士財政基金から3万円、扶助協会福岡県支部から4万円という負担となっています。県支部4万円は、福岡県弁護士会の基金から支出されていますが、そのため当会の会員は月5000円が会費に上乗せされています。
 この制度によって、2003年度に福岡県内で1296人の少年に観護措置決定がされたが、そのうち780人に弁護士付添人がついた。福岡家裁本庁では534人の少年のうち410人に弁護士付添人がついた(77%)。
 付添人の活動によって、家裁に送致されてから審判までの間に少年の要保護性が減少し、少年院送致はなく、社会内処遇が選択される比率が高まっている。
 多くの審判官や調査官が少年の更生のために熱心に職務を遂行していることは認めるが、外部チェックのない組織は独善に陥る危険性もあり、健全に発展するのが難しいことは社会の常識でもある。
 弁護士が付添人として少年審判に関与し、裁判所が恣意的判断に陥らないようチェックし、処分の決定基準そのものに付添人の意見が繁栄されることには大きな意義がある。
 福岡県弁護士会では、付添人活動のレベルアップのための研修会もひんぱんに行われている。月報にも、その苦労話が毎回のように紹介されています。必ずしも成功談ばかりではなく、頭の下がるような話のオンパレードです。
 審判書を少年本人や保護者に読んでもらうことは、たいていの場合、大きな意味がある。付添人はその点にも留意して活動している。
 470頁、4400円と、ズシリと重たい本ですが、少年事件の適正手続の実現と少年の更生に向けた環境づくりのために福岡県弁護士会の先進的な取り組みを詳細に分析・評価している貴重な本として、広く読まれることを願っています。

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