弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年3月16日

千年、働いてきました

社会

著者:野村 進、出版社:角川ワンテーマ21・新書
 世界最古の会社は日本にある。創立578年。えっ、いつのこと。西暦578年です。これはなんと、飛鳥時代なのです。うむむ、そんな・・・。
 大阪の金剛組という建築会社で、飛鳥時代から、寺や神社を建てつづけてきたのです。ですから、創業1400年をこえています。すごーい。
 ところが、この日本最古、いえ世界最古の会社が最近、破産申立したというのです。しかし、周囲が助けました。なんとか金剛組は存続することができました。
 金剛組の創業者はコリアンです。といっても、聖徳太子(実在の人物なのか疑問もあるようですが・・・)に招かれて朝鮮半島の百済からやってきた3人の工匠のうちの一人でした。
 日本には、ほかに創業1300年の北陸の旅館、1200年の京都の和菓子屋、
1100年の京都の仏具店、1000年の薬局という店がある。創業100年以上だと 10万社以上あると推定されている。
 ヨーロッパの最古の企業は1369年設立のイタリアの金細工メーカー。創業640年。これより古い日本の企業は100社ほどある。
 韓国には三代続く店はない。中国の最古の店は337年前に設立された漢方薬の北京同仁堂。
 日本の10万軒をこえる創業100年以上の老舗のうち、およそ4万5000軒が製造部門。ここに日本の老舗の特質がある。職が尊ばれるのは、アジアでは日本くらい。
 1グラムの純金を太さ0.05ミリの線にすると、3000メートルになる。コンピューターの集積回路の接合部に金の極細線がつかわれている。太さは10マイクロメートル。人の髪の毛は80マイクロメートルなので、その8分の1の太さだ。これを日本の田中貴金属がつくっている。
 ケータイの折り曲げ部分に使われている銅箔(どうはく)は、日本企業であるメーカー2社で世界のシェアの9割を占めている。
 捨てられた不用のケータイを集めたゴミの山には1トンあたり280グラムの金がふくまれている。日本で採掘されるもっとも品質の高い金鉱でも1トンから60グラムの金しかとれないから、その4〜5倍も金がとれることになる。つまり、ケータイのゴミの山は、まさに金鉱そのものなのだ。
 また、ケータイには、1キロあたり200〜300グラムの銅もふくまれている。これと同じ量を天然の銅鉱石から得るためには10キロが必要となる。
 農林業関係者からひどく嫌われているカイガラムシは、真っ白なロウを分泌する。これは光沢があり、化学的にも安定している。これが、防湿剤や潤滑剤そしてカラーインクの原料として有望なのだ。老舗の会社が、研究・開発をすすめているのです。
 同族経営・非上場には強みがある。社長が替わらない。株主の顔色をうかがわずにすむ。だから、長期的な視野で研究開発にのぞめるし、ハイリスク・ハイリターンのテーマに長期間、資金を投入することができる。むしろ、同族経営・非上場でないと、画期的な独自の研究開発はとても不可能だ。
 長生き、元気で若く、女性の支持がある。この三つにマッチする商品は絶対売れる。女性がダメというものは絶対に売れない。
 うまくいっている老舗は、不思議なことに三世代同居という経験をつんでいる。
 日本人が昔からものづくりを大切にしてきたこと、そのためには必ずしも血縁ばかりを重視せずに伝統を絶やさないよう工夫してきたことなどの分かる、とても面白い本です。

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