弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2007年2月26日

サルの子どもは立派に育つ

サル

著者:松井 猛、出版社:西日本新聞社
 高崎山のサルを30年間観察してきた人の本です。大変勉強になりました。なにしろ2500人のサル(最近は、匹などとは言わず、人間と同じく、人と呼んでいると思います)を全部、見分けることができるというのです。たいしたものです。どう見ても同じような顔をしていると思うのですが・・・。でも、日本人もアメリカ人からすると、みんな同じような顔に見え、まったく見分けがつかないという話を聞いたことがあります。
 母サルは母乳だけで育てる時期は、赤ん坊がお乳を欲しがると、いつでも飲ませる。生後3ヶ月すると、赤ん坊たちは遊びに飽きると母ザルの元に戻って、お乳を飲もうとする。
 赤ん坊のしつけに一番効果があるのは、授乳拒否。赤ん坊は泣きつかれると、母ザルはつい赤ん坊の背中に手をかけてしまう。これが授乳許可を出したサインとなる。
 母ザルは授乳拒否に時間をかける。これによって、それまで赤ん坊のペースにあわせてきた子育てが、次第に母ザルのペースに変わる。赤ん坊は、授乳拒否を経験して、お乳を飲みたくなっても、そーっと乳房に手を伸ばし、母ザルの反応を気にするようになる。
 母ザルは授乳拒否するとき、赤ん坊の目をのぞきこんで叱る。赤ん坊は母ザルから目をそらそうとするが、母ザルは赤ん坊の後頭部を握って正面を向かせ、お母さんの目を見なさいとばかり、荒々しくふるまう。このとき、母ザルは自分の気持ちを赤ん坊に伝えようと真剣、一生懸命だ。
 母ザルは赤ん坊にお乳は与えるが、それは、餌を与えることは絶対にない。餌のある場所に連れていって、見守るだけ。野生の世界で生きていくには、食べ物を与えないことこそが愛情なのだ。
 赤ん坊が手に入れたイモを母ザルが奪う。それは母ザルが奪わなくても、必ずほかの大人ザルから奪われる。そのとき、かみつかれて、大ケガしてしまうかもしれない。こうやって子ザルはイモを奪われないようにしてから食べることを学ぶ。
 ニホンザルの妊娠期間は人間の半分、5ヶ月半。6月が出産のピーク。母ザルは、2〜3年に1回、出産する。赤ん坊は出産当日から1ヶ月内が一番危険。赤ん坊が母ザルとはぐれると、ほとんど死んでしまう。
 双子が生まれる確率は低い。1万回の出産で9組のみ。そのうち2人とも1歳まで育ったのは3組だけ。
 サルの母と娘の上下関係は、死ぬまで母親の立場が強い。サルは母子家庭。メスザルの出世は血筋で決まる。母ザルは、子どもたちが兄弟ゲンカしたときは、必ず年下の側を応援する。だから、弟や妹の方が威張っている。
 メスザルは、一生のうちに10〜12人の赤ん坊を出産する。オスは4〜5歳のとき、故郷を離れる。
 ボスザルはもてない。メスザルと関係して生まれた娘たちを交尾する危険があるから。だから、群れに入ったばかりの血縁のない若いオスザルがもてもてになる。
 写真がたくさんあって、楽しい本です。中学生のとき、修学旅行で高崎山に行きました。餌場で右手をサルにがぶりとかまれて痛い思いをしました。私は、すぐ近くのサルにまず餌をやったのですが、次に今度は遠くのサルに餌をやろうとしたのです。それを見て、近くにいたサルがどうしてそんなことをするのかと怒ったのです。私としては、サルに公平に餌をやりたいという善意の気持ちからしたことでした。その痛みで、サルと人間の常識の違いが身をもって分かりました。

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