弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年12月18日

瀕死のライオン

著者:麻生 幾、出版社:幻冬舎
 自衛隊のなかに特殊作戦群(SOG)が存在することは報道されています。陸上自衛隊の精鋭である第一空挺団の隊員を中心とする300人編成です。2004年3月、防衛庁長官の直轄部隊です。指揮官は群長と呼ばれ、一等陸佐であること以外は秘密です。対テロ、対コマンド部隊ということですが、それ以上は何も公表されていません。
 内閣情報調査室(CIRO、サイロ)は、内閣総理大臣の決断を直接支える情報機関であり、トップの内閣情報官は、歴代、警察官僚が占めています。その活動一切が非公開です。この本は、この2つの組織の実態をベースとしています。
 特殊作戦群の隊員の訓練状況が描かれていますが、実にすさまじいものです。まずは人殺しなること、そのうえで、自分の頭で考えろ、というのです。両者は根本的に矛盾します。本当によく考えて人を殺せるものなのでしょうか・・・。そして、その訓練はすべて英語です。いかにもアメリカ軍のもとで訓練されてきたことを思わせます。
 付与した設想を復唱しろ。
 なんとも奇妙な日本語です。タスキングしたシナリオを復唱しろ、とルビがふってあります。日本の自衛隊は、大小兵器のサイズがすべてアメリカのものと同一になっていて、日本独自のサイズはないといいます。アメリカは日本軍が独立することを恐れて、許さないというのです。そして、アメリカ製兵器のもっとも大事な部分の製造方法は日本に教えていません。武器・弾薬についてもアメリカの言いなりになるしかない構造なのです。
 残念ながらアメリカの国家戦略と日本の安全保障とは、必ずしも一致しない。
 こんなセリフが出てきます。考えてみれば、まったく当然のことです。アメリカが自国のことを優先させる。言いかえると、日本をあとまわしにするのは当然のことです。自分の国の利害を考えず、まっさきに日本をアメリカが守ってくれるなど、万に一つも考えられることではありません。しかし、自民党を支持する多くの日本国民が、何かあったらアメリカは日本を守ってくれるはずだと盲信しています。恐ろしいことです。
 そしてまた、軍隊というものは自分(軍隊)を守るものであって、国民を守るということはないことも自明のことです。国民は、軍隊にとって邪魔で馬鹿な集団に過ぎません。このことは戦前の日本だけでなく、洋の東西で証明し尽くされてきた真理です。軍隊は、自分に余裕のあるときに限って、ついでに一般国民のことを考えるに過ぎません。軍隊に化した集団に思いやりなんて期待するほうが無理というものです。ですから、防衛省なんてつくって、彼らを野放しにしたらいけないのです。
 自衛隊の特殊作戦群が北朝鮮に潜入し、ある行動を起こすというストーリーです。まるでありえない状況というわけにはいかないところが怖いところです。
 瀕死のライオンというのは、スイスのルツェルンにあるライオン像のことです。私も、何年か前に見てきました。大きなライオン像です。スイスはヨーロッパ各国へ傭兵を輸出していました。フランス革命のときに、チュイルリー宮殿でルイ16世を守って生命を落とした786人のスイス傭兵に対する慰霊碑としてつくられた像です。
 ルツェルンには大きな湖があり、白鳥が優雅に泳いでいました。
 日本のスーパー自衛隊員が活躍する小説を読みながら、日本の平和を自衛隊にまかせていたら危ない、軍隊に頼って平和は守ることはできないと、つくづく思ったことでした。

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