弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年11月27日

コバウおじさんを知っていますか

著者:チョン インキョン、出版社:草の根出版社
 韓国の新聞マンガにコバウおじさんというものがあるのは私も知っていました。韓国の世相と政治を庶民の立場から鋭く風刺したハイレベルのマンガです。なんと45年間も連載したというのですから、本当にたいしたものです。日本でも、それほど息の長いのはないでしょう。サザエさんは世相を反映していますが、政治批判はほとんどないでしょう。フジ三太郎には少し政治批判を感じていましたが・・・。
 韓国の学生運動は、日本と違って最近まで盛んでしたが、このところいささか低調のようです。そのかわり、労働運動は相変わらず過激なようです。労働者がデモやストライキをするときには赤いチョッキをユニホームのように着ます。
 コバウおじさんの作者である金星煥(キムソンファン)は、1932年10月、ソウル近くの開城(今の北朝鮮)で生まれました。父は抗日運動に関わっていて、5歳のときに旧満州に移り住みました。
 戦後、朝鮮が独立し、金星煥は高校生のときからプロのマンガ家としてデビューします。まだ17歳というから天才的です。やがて、朝鮮戦争が始まります。1950年6月25日のことです。金星煥は、多くの死体を目撃し、ショックを受けます。コバウおじさんは、この朝鮮戦争のさなかに生まれました。
 コバウのコは高で、名字。バウは岩という意味で名前。高は、韓国民族の孤高な精神を、バウは岩のような剛直な性格をあらわす。年齢は55歳。その後、ぜんぜん年をとりません。
 コバウおじさんには頭に一本しかない髪の毛がある。平常時は先が少し曲がっており、驚くとまっすぐに立つ。呆れ返ったり困ったりすると、ぐにゃぐにゃになる。だから、髪の毛の状態でコバウおじさんの気持ちが読みとれる。
 コバウおじさんは無表情な顔をしている。これは、思ってもいない感情を、迎合して派手に表現する、おかしくもないのに追従的に笑う習慣のある日本人とは別だという表現でもある。コバウおじさんは、無表情な顔で淡々と状況を伝える。これが、もし表情豊かで、可愛いキャラクターだったら、かえってこのマンガのインパクトは大きくなかっただろう。冷静なジャーナリストの役割をつとめているため、読者はかえって素早くその内容を理解し、共感できた。なーるほど、鋭い分析ですね。
 金星煥は、政府によって連行され、即決裁判にかけられて、大統領を侮辱した軽犯罪で450ファンの罰金刑を言い渡されたことがあります。
 コバウおじさんが休んだ日は読者からの問い合わせが新聞社に殺到し、政府の方があわてて政府の干渉によって休載したと思われないように金星煥を呼びつけ、干渉しないことを約束してマンガを描かせたというエピソードも紹介されています。それほど、国の内外で注目されるマンガでした。
 マンガの絵は変えられないとしても、セリフは何百回も変えさせられたと金星煥は語っています。わざと締め切り間際に入稿して、変えにくくもしていたそうです。
 著者は韓国うまれの女性です。自分でもマンガを描きます。小泉首相を風刺したマンガがいくつか紹介されていますが、なかなかの出来です。
 日本の新聞マンガも、もうひとつビシッと今の世相と政治を厳しく批判してほしいものだと、つくづく思いました。

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