弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年10月 2日

MBAが会社をほろぼす

著者:H・ミンツバーグ、出版社:日経BP社
 MBAは間違っているという内容の衝撃的な本ですが、なるほどと思いました。ダメな会社ほど、ビジネススクール出身者が目立つのはなぜだろう、という問いかけがあり、それはMBAが時代遅れの経営技術だからです、という答えがオビに書かれています。
 MBAをフルに活用した会社に、あの有名なインチキ会社エンロンがあります。エンロンは、1990年代、毎年250人の新卒MBAを採用し、大勢のMBA卒業生をかかえていた。エンロンは、ナルシスト型のリーダーをもっていた。このナルシストたちは、恐るべきマネージャーであり、他人の意見に耳を傾けず、実際以上に大きな手柄を主張する傾向がある。エンロンは人材重視の発想をもっていながら失敗してしまったのではなく、人材重視の発想をもっていたからこそ失敗した。人材神話は、人間が組織を賢くするという前提に立っている。実際は、その正反対だ。
 MBA卒業生がCEOになって、その企業はどうなったか。惨憺たる成績を見せたというしかない。19人のうち10人は会社が破産したり、更迭されたり、企業合併が失敗に終わったりしている。あと4人にも問題がある。すなわち、ハーバードMBAのもっとも優秀な卒業生とみられていた19人のうち、失敗しなかったと思われるのは、わずか5人のみ。MBAは、大勢の不適切な人材にあまりに大きな優位を与えている。マネージャーの評価は、仕事で決まるべきだ。
 ビジネスの世界で成功をおさめているMBA卒業生は、ビジネススクールで植えつけられた歪んだビジネス観を克服したからこそ成功できたのだ。
 MBA卒業生は、頭が良すぎるし、せっかちすぎるし、自信満々すぎる。独善的すぎるし、現実からあまりに遊離しすぎている。白馬に乗ってさっそうとやってくるヒーロー型マネージャーの多くは、ブラックホールのように企業の業績をのみ込んでしまう。
 アメリカでは、この10年間に100万人ほどのMBA卒業生が経済界に送り出されている。しかし、MBAプログラムは、間違った人間を間違った方法で訓練し、間違った結果を生んでいる。MBAの失敗の最大の原因は、学生の経験を活用できていないことにある。マネジメント経験のない人にマネジメントを教えるのは、ほかの人間に会ったことのない人に倫理学を教えるようなものだ。このたとえは、門外漢の私にもよく分かります。
 マネジメントは実践であり、専門技術ではない。時期尚早だと、正しい人物までも正しくなくなる。ビジネススクール卒業生は頭がいいし知識も豊富だが、物事の全体を見ることができない。複数の学問領域にまたがる問題になると対処することができない。
 ケースメソッドはロースクールでは有用だけど、ビジネススクールでは違う。MBA卒業生の際だった特徴は、傲慢であること。今日では、尊大な人間こそ、ビジネスの世界で出世できる。なるほど、そうですよね。日本でいうとホリエモン、村上、そしてオリックスの宮内がすぐに連想できます。
 能力なき自信は傲慢さを生む。MBA卒業生の名だたる傲慢さは、弱さのあらわれかもしれない。私も、そうかもしれないと思います。私は、この本を読んで、アメリカのMBA礼賛をきっぱり捨てました。むしろ、日本企業のOJTの方がよいという著者の意見に全面的に賛成します。

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