弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年9月29日

見えない貌

著者:夏樹静子、出版社:光文社
 著者の5年ぶりの推理小説です。ハードカバーの600頁近い大作を読み終えて、ふーっと一息をついたとき、最後の頁の謝辞に目が留まりました。当会の船木誠一郎弁護士の名前が一番にあげられていました。私も弁護士会の役員になる前に、刑事弁護の課題について教えてもらったことがあります。船木弁護士は一時間ほどかけて懇切丁寧にさまざまな問題点を分かりやすく解説してくれました。今も感謝しています。この場を借りて、改めてお礼を申し上げます。
 推理小説ですから、あら筋などを紹介することはできません。ぜひ、あなたも手に取ってお読みくださいというしかありません。
 ただ、携帯電話とメールの利用についてだけ少し紹介します。出会い系サイトという言葉は、最近あまり聞きませんが、実際には大流行しているようです。名前はもちろんのこと、性別・年齢・職業なども隠し、また偽って誰かになりすましてメル友を求め、交流します。しかし、そのうち、どうしても会いたくなってしまいます。
 メール上では、人は自分と別個のネット人格を持つ。いや、別人格になりたくて、人はメル友をつくるのかもしれない。別人格から紡ぎ出されるメールは、とかくオーバーな表現になり、現実から浮遊して、声も表情も伴わない言葉だけが独り歩きしていく。
 最近の統計によると、女性のほうも、平均して10回のメールのやりとりをしたら、そろそろ会ってもいいだろうという気になる。この世界では、女性は待ちのスタンス、男が仕掛けていく。
 携帯メールの履歴(ログ)は取り出しに2ヶ月ほどかかるという。私も刑事事件で警察が関係する携帯電話とメールをすべて割り出して一本に時系列でまとめた解析表を見たことがあります。犯罪捜査のためですから当然のことでしょうが、携帯電話にはプライバシー保護なんて、ないのも同然なんだと、つくづく思ったことでした。

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