弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年9月 8日

異端の大義(下)

著者:楡 周平、出版社:毎日新聞社
 船が沈み始めてからではもう遅い。
 ぐさっと胸につきささる言葉です。47歳でサラリーマンが転職しようとしても、どこにも引き取り手がないというのです。なんとむごい言葉でしょうか・・・。
 窮地に陥ってから慌てて次の船を探すような人間に手をさしのべる企業はない。気配を察して、次の船を探す。それくらいのしたたかさと決断力がなければ、どこの企業も雇いたがるはずはない。最大の問題は決断力の遅さにある。
 うむむ・・・、こう言われてしまったら、返す言葉はありません。
 どんな会社でも、余人をもって代え難いなんて仕事はない。誰かが抜けたら、その後任が仕事を引く継ぐ。それが組織だ。これは私も、そう思います。
 早期退職制度、年功序列の撤廃、能力給の導入、これらが会社にとって本当にプラスになったのか。早期退職制度は、事実上の指名解雇だ。同時に有能な社員の多くが会社を去っていく。不必要な人間の何倍もの能力をもち、多大な貢献をしてきた社員が真っ先に辞めていく。真っ先に手を上げるのは、人事考課が優れているうえに将来を嘱望される人間だ。有能な社員は再就職に苦労しないから。まして割り増しの退職金をもらえるなら、なおさらのこと。
 同族企業の経営には問題がある。その経営は代々、創業者に連なる人間によって行われてきた。彼らがこれと目をつけた人間は、早くなら社内でグループを形成し、それに属さない人間たちよりも早い出世、重要なポストが与えられてきた。労働組合もそう。組合執行部の重要な役職につくメンバーは事前に会社からの内諾を得なければならず、賃金交渉や人事制度の改変も、すべて会社側の意向が100%反映される仕組みができあがっている。
 成果主義といっても言葉のうえだけのことで、実際はそのグループに属する人間たちのサジ加減ひとつで決められている。だから、社員の士気が低下するのも当然だ。
 会社の厳しい状況がよく伝わってくる本です。同時に、日本企業が倒産に直面していると、外資ファンドがそれをターゲットとして、金もうけに乗り出してくるカラクリも描かれています。
 私の住んでいる街でもリゾート・ホテルが外資に買収されてしまいました。そして、それがまた売られようとしています。彼らは、投資額がどれだけの利まわりで回収できるか、しか頭にないのです。それでは企業に働く人々はいったいどうなるのでしょうか。
 今日の日本企業の置かれている状況がよく分かる本でした。すごく調べてあるのに、つくづく感心します。モノカキは、こうでなくっちゃ、いけませんね。これは自戒の言葉です。

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