弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年6月 6日

古文書はこんなに魅力的

著者:油井宏子、出版社:柏書房
 古文書(こもんじょ)がすらすら読めたら、どんなにいいことでしょう。これは、私の長年の夢です。とてもかなえられそうもありませんが、それでもこうやって未練がましく古文書解読の本に手を出してしまいます。つれあいの亡き父親も古文書解読に挑戦しておられました。カルチャー教室に通って勉強していたのです。それだけでもすごいと尊敬していました。
 この本は本文だけ読むと、いかにも楽しい語り口なので、いまにもスラスラ古文書の難解なくずし文字が読めそうな気がしてきます。でも、くずし字にいろんなパターンがあるのを知ると、すぐに腰くだけになってしまうのです。ひぇーっ、ここまで字をくずしてしまうの・・・、と叫びたい気持ちです。でも、私の手書きのくずし字を解読して、ほとんど間違いなく素早く入力してくれる事務局の毎日の苦労を思うと、そんなこと他人事(ひとごと)みたいに言っておれないでしょ、と自戒させられてもしまうのです、ハイ。
 この本の面白いところは、2つの実例を紹介しているところです。まずは京都の相良郡山城町の庄屋であった浅田家文書です。そこに出てくる利助氏の顛末が紹介されています。当時31歳の利助氏は農業のかたわら綿を扱う小売商をしていたのですが、商売に行き詰まって、村を出奔(しゅっぽん)してしまったのです。6人家族でしたが、欠落(かけおち)したのです。この場合、欠落とは男女が手をとりあって逃げるということではなく、失踪したという意味です。借金を返せなくなって村を逃げて出ていったのでした。40貫匁の借銀(ここは関西ですから銀本位制です)をかかえていました。換算の仕方で異なりますが、今の2700万円から2億円にあたります。いずれにしても、相当の借金ではあります。夜逃げするのも当然のことでしょう。村役人は借銀返済のため、利助氏に所持している家屋敷・諸道具・田畑のすべてを売り払い、稲小屋に住めと裁定しました。利助氏はそれに納得できず、村を出たのです。そして、近隣の村で百姓の手伝い、紙商内の手伝い、農業の手伝いをしたあと、3ヶ月ほどして村に帰ってきました。村役人は、それを受け入れて帰村許可を当局に願ったのです。そして、それは認められました。そのころは、帰村を願ったら認められていたのです。村としても貴重な労働力を逃がしたくなかったからす。
 古文書には、主語がときどき分からなくなるので、注意するように、とされています。古文書の解読はやっぱり難しいのです。利助氏は村へ戻ってからは大工職で生計を立てていたようです。その顛末も分かって、勉強にもなる楽しい本です。
 次に、江戸は日本橋の白木屋の奉公人六兵衛の話です。そうです。白木屋と言えば、映画「男はつらいよ」のタンカバイにも出てくる、あの白木屋です。天保10年(1839年)から、安政6年(1859年)にかけて、白木屋の日本橋店の奉公人を取り調べた記録が残っているのです。店に対して何らかの不正を働いた奉公人120人の事例が記録されています。日本人って、昔から記録魔がいるのですよね。私は、それほどではありません。
 六兵衛は仙台様の御屋敷に掛売り代金の回収に出かけたはずなのに、帰って来ませんでした。9日後に居所が判明して戻されました。いったい、そのあいだ六兵衛はどこで何をしていたのでしょう。その謎が解き明かされていくのです。たしかに難しいくずし字にもだんだん慣れてきた気がします。
 白木屋では、手代たちが、3月、5月、9月の節句前、10月の恵比須講前、そして盆・暮と年に6回掛取りに回っていました。ただし、手代の心構えとしては、この6回に限らず、常々からお客様に油断なく催促して、少しでも残掛を減らすように工夫することが肝要であるとされていました。
 実は、六兵衛は、この掛売りの回収がうまくいかないのを悩んで、成田不動尊へ参籠するつもりになり、それが途中で気が変わって、実は日光に向かったのでした。苦しいときの神頼みに走ったのです。ところが、帰る途中で、知りあいの商人に出会い、もう一度、日光に出かけ、そして一緒に江戸に戻ってきました。
 江戸と山城(京都)で書かれたくずし字はほとんど同じだった。江戸時代全般にわたって、ほとんど全国的にくずし字は同じに統一されていた。青蓮院流が江戸時代に大衆化した御家流に全国統一されていたのだ。方言はいろいろあっても、書き言葉の方は文字は同じだった。これが日本の特徴だそうです。
 やっぱり、くずし字は難しい。でも、チャレンジしたい。そんな気にさせる本です。
 グラジオラスが咲きはじめました。ピンクのふちどりのある白い花です。清楚な印象を受けます。日曜日に青梅がザル2杯分とれました。ラズベリーの赤い実もなりはじめました。夜、ホタルを見に出かけると、見物客の方が多いくらいでした。

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