弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年4月28日

交通事故の被害者は二度泣かされる

著者:柳原三佳、出版社:ルベルタ出版
 交通事故が起きてから警察官がつくった実況見聞調書がひどく杜撰だったため、加害者も被害者も大いに困ったというケースはしばしばです。この本では、どうして杜撰な調書ができるのか、その理由のひとつが解き明かされています。要するに、交通課の警察官が忙しすぎ、ノルマに追われているため、一件一件を丁寧に処理する精神的にも物理的にもゆとりを喪っていることにあるということです。
 管内に生じた交通事故について、1日に平均4回前後も出動し、1ヶ月には60〜70回となる。このうち担当するのは1ヶ月に20件くらい。被害者のケガの程度が2週間以内の事故については、簡約特例方式による1件書類をつくる。これは事故後1ヶ月内に診断書を添付して決裁にあげなければならない。これが8割くらいある。ところが、被害者がなかなか診断書をもってこないので、処理がすすまず、1ヶ月をこえてしまうことも多い。
 特例書式については、県警交通部より、3ヶ月内に処理するよう指導を受けている。早期処理のためノルマ主義があり、一定の処理件数をこなしていないとならない。処理件数が少ないと、超過勤務手当が削られたりもする。
 このように交通警察官があまりに忙しすぎて、もっとも大切な真実追究や事故原因の解明が二の次にまわされている疑いがある。私は、交通警察官が警察署内で冷遇されているのではないかと考えています。警察署内でもっとも優遇されているのは、なんといっても警備・公安警察です。なにしろ、使途のチェックを受けないS(スパイ)対策費を潤沢につかえるのですから、やめられないことでしょう。次に刑事、そしてパチンコ店などをかかえる生活安全課でしょう。
 毎日、本当に地道に事故処理を続けている交通警察官の皆さんには頭が下がります。といっても、杜撰な調書を見つけたら、もちろん、私もその不備を弾劾するつもりでいます。
 この本ではロサンゼルス市警の交通事故処理の状況が紹介されていて、参考になりました。まず、警察署の入り口の壁に若い殉職警察官の肖像写真がずらり飾られているというのに、日本との違いを実感させられます。ロス市警の黒人警部が、のちにロサンゼルス市長となったということであり、かなり警察署の雰囲気も違います。
 ロスでは、交通事故に関する調書は事故当事者であれば、13ドル支払えばすべて見ることができる。著書の開示だけでなく、事故当事者からの直接の問い合わせにも警察は応じている。
 ドイツでは、事故直後の実況見聞調書にヘリコプターを飛ばして現場を上空から写した航空写真が添付されている。
 日本でも、こんなシステムがあればいいな、と思ったことでした。

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