弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年3月10日

ヨーロッパとイスラーム

著者:内藤正典、出版社:岩波書店
 共生は可能か、というサブタイトルがついています。デンマークの漫画家がマホメットをテロリストのように描き、それがデンマークの新聞にのり、ヨーロッパ各地の新聞に転載されました。イスラム教信者の人々が怒るのはもっともです。日本人だって、天皇が凶悪な殺人鬼のように描かれたら、怒り出す人は多いのではないでしょうか。
 ところが、ヨーロッパの人々は、概して、それは表現の自由の範囲内のことではないか、言論弾圧はしたくないし、問題にする方がおかしいと言って平然と開き直っています。本当に言論の自由の範囲内なのでしょうか・・・。
 麻生太郎外相が講演会で、日本の植民地だったから台湾は教育程度が高くなったと講演しました。これって、台湾の人が聞いて許せるでしょうか。私なら絶対に許せません。
 麻生太郎が居酒屋で知人に対して同じことを言ったのなら、私は許します。ところが、日本国の外務大臣の肩書きをつけて、公開の場所で公衆に対して放言したのですよ。日本が中国・台湾・朝鮮半島を侵略して植民地としたことは反省すべきことではありませんか。しかし、そんな麻生外相の発言に対して手を叩いて賛同する日本人が少なくありません。最近は、若者に増えているようです。自虐史観から抜け出せ、などと叫んでいます。しかし、歴史の真実に目をふさいではいけません。
 ムスリムはキリスト教徒を敵視しなかった。イスラム王朝の支配下におくときには、庇護を与える代わりに人頭税の支払いを求めた。必要経費を払った安全と一定の自由を享受するのだから、不平等だと感じていなかった。
 ところが、キリスト教徒は過去1000年以上にわたってムスリムを敵視してきた。ヨーロッパの社会は、中東・イスラム世界に対して、たえず恐怖と嫌悪を抱き続けてきた。ムスリムによる統治は、宗教の相違を承知のうえで共存を可能にするものだったが、キリスト教のヨーロッパはそれを理解しなかったし容認もしなかった。
 フランスには500万人のムスリムが住み、ヨーロッパで最多。ドイツには300万人のムスリムがいて、そのうちトルコ出身だけで260万人いる。ヨーロッパ全体には
2000万人のムスリムがいる。
 衛星放送のおかげで、母国トルコとヨーロッパの距離は近づいた。しかし、その結果、ヨーロッパ在住のトルコ系移民とドイツ社会の心理的・文化的距離は、逆に遠くなっていまった。
 少なくとも友人になるためには、相手を知り、相手が何を考えているかを洞察する能力が必要だ。これが他者への思いやりだ。ドイツ人一般にその能力が欠けているわけではない。しかし、相手がトルコ人だと、この能力は働かない。それがドイツ人だ。
 これはドイツに住む、成功したトルコ系移民の言葉です。うーむ、そうなのかー・・・。日本でも同じことが言えそうだな、ついそう思ってしまいました。アメリカ白人なら尊重するのに、黒人とか同じアジア系の人に対しては、いわば見下してしまう傾向が日本人にはあるように思います。
 イスラム教には、金銭や商売をいやしいものとする考えがまったくない。そして、強者が弱者を救済するのは、あらゆる人間関係の基本をなす道徳とされる。
 フランス語の会話教室に毎週かよっていますが、そこで初めてマホメットをテロリストに擬している漫画を見ました。日本の新聞には転載していないから、それまで見たくても見ることができませんでした。ところが、インターネットの画面では簡単に見ることができるのですね。これまた、便利なようで、怖いことですよね。

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