弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2006年1月20日

かんじき飛脚

著者:山本一力、出版社:新潮社
 著者の筆力には、いつものことながら感心させられます。ぐいぐいと本の中の世界に引きずりこまれてしまいます。
 ときは寛政の改革をはじめた松平定信が老中首座にすわった江戸時代です。吉宗の孫として、紀州御庭番を思うように操り、天下の雄藩である加賀の前田藩のお取り潰しを狙うのです。そうはさせじと、前田藩の用人が画策し、飛脚が登場してきます。
 江戸時代、将軍家と雄藩とは水面下で激しく対抗・抗争もしていました。表面上はにこやかに笑顔を交わしつつ、その内実はお互いに足を引っぱりあっていたのです。
 老中定信は、幕府の財政支出を抑えるため、ぜいたく禁止令を出し、札差し(当時の金貸し)の貸金(借りた大名や武士・町民からいうと、もちろん借金)を帳消しにしてしまう棄捐令を発布しました。ところが、借りていた大名・町民が借金がゼロになって喜んでいたのは、ほんの2ヶ月ほどのこと。あとは札差しがお金を貸せず、ぜいたくもしなくなったことから、世の中の動きがすこぶる悪くなって、大層な不景気をまねき、老中定信の人気(威信)は一瞬のうちに凋落してしまいました。
 加賀前田藩には幕府当局に知られたくない2つの秘密がありました。それを御庭番の働きによって探知した老中定信は、前田藩に無理難題を吹っかけます。ここで救いの主として登場するのが飛脚なのです。
 飛脚のなかにも御庭番と内通する者がいたりして、雪中に走る飛脚が狙われてしまいます。ここらあたりの描写の緊迫感は何とも言えない心地よさがあります。
 史実とかけ離れている話なのでしょうが、歴史小説として大変面白く読みました。

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