弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年12月 5日

鳥たちの旅

著者:樋口広芳、出版社:NHKブックス
 すっごく面白い本です。私と同じ団塊世代の学者の書いた本ですが、その日頃の多大な労苦に心から拍手を送ります。その地道な研究を、このように素人にも分かりやすくまとめていただいて、心から感謝します。
 「グース」というアメリカの映画を少し前に見ました。ガンのわたりを追いかけたものです。小型の飛行機で撮影したようです。「ミクロコスモス」というフランス映画がありました。オスとメスのカタツムリによる愛撫シーンは、あまりに官能的なので鳥肌が立ち、その匂いたつエロスにすっかり圧倒されてしまいました。同じ監督がつくったのが「WATARIDORI」(渡り鳥)です。渡り鳥の生態を刻明に、超軽量飛行機に乗ってどこまでも追いかけた映像の素晴らしさには、声も出ないほど、息を呑むばかりでした。
 この本で、著者はコハクチョウに送信機をつけ、北海道からロシアへ渡るのを追いかけます。マナヅルが九州(鹿児島)から朝鮮半島そして中国・ロシアに渡るのも追跡しました。50日間で2千キロをこえる旅です。コンピューターの前にすわって、送信機からの電波を解析しながら追跡していくのです。
 サシバ(タカ類)が石垣島から東北・福島まで渡ってくる。福ちゃんと呼ぶサシバを追跡する。福ちゃんは3月17日に石垣島を出発し、4月15日に福島県白沢村にたどり着く。31日間で2900キロの旅だ。別のサシバ「新子」は新潟県を9月7日に出発し、10月13日に石垣島に到着。37日間で2271キロを移動した。
 ハチクマは長野県の安曇野を9月19日に出発し、11月9日にインドネシアのジャワ島に到着。52日間で1万キロ近くを移動した。春は2月22日に出発し、5月18日に安曇野に戻った。58日間、1万6千キロの旅だった。戻った場所は、前年とまったく同じ安曇野の同じところ。毎年ほとんど同じ日に旅に出る。カレンダーもないのに不思議だ。
 このような追跡は、鳥に送信機をつけることによって可能となる。この衛星追跡システムをアルゴスシステムとも呼ぶ。アメリカの気象衛星(ノア)を利用している。ここでもドップラー効果を利用して鳥の位置が探知される。
 鳥にどうやって送信機を取りつけるのか。送信機の重さは鳥の体重の4%以内なら影響はないとされている。重さは12〜100グラムほど。羽毛に直接貼りつけたり、テフロンリボンをつかってランドセルのように背負わせる。
 鳥が渡りをするのは寒さから逃れるためではない。鳥は定温動物なので、気温の変化にはそれほど左右されない。鳥が渡るのは、食物を十分に確保するため。
 鳥が渡るときには、太陽の位置を体内時計で補正しながら飛んでいる。夜には星座を利用するし、地磁気も重要な手がかりとしている。それにしても、秋の出発地と春の到着地がまったく同じというのは、地図情報がなくてもできることなのか・・・。
 朝鮮半島の非武装地帯は、鳥たちにとって、残された数少ない良好な自然環境である。今や鳥たちがあてにできる自然環境は激減し、鳥の生存が脅かされている。
 送信機をつける鳥をどうやって捕まえるのか。ロシアでは、大型ツル類をつかまえるには、ヘリコプターで近づき、地上2メートルから人間が飛びおりて、ツルに抱きつく方法がとられている。しかし、これは人間がケガする危険は大きい。だから、睡眠薬を利用したり、わなをつかったりする。
 衛星追跡するには、10個体200日の追跡で850万円もの費用がかかる。うーん、大変です。写真のほか、大変わかりやすいイラストがついています。楽しく渡り鳥の生態が学べました。本当に学者って、すごいですよね。

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