弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年11月22日

昔、革命的だったお父さんたちへ

著者:林 信吾、出版社:平凡社新書
 団塊世代の登場と終焉、そんなサブタイトルがついていることもあって、読まずにはおれませんでした。
 団塊世代は、会社人間の最後の世代である。彼らの多くは下の世代から嫌われた。部下を持つ身になって、どうもコミュニケーションがうまくとれない。建設的な議論ができない。キャッチコピーを連呼するだけの無内容なオヤジに過ぎない。みんなで一斉に動かねば気がすまず、反対意見には耳を貸さない。
 団塊世代はバブル景気の主役とは言えない。単に巨大なマーケッティング・ターゲットとして踊らされただけ。しかし、地上げ、土地転がしでもうけたカネを、株式市場でさらに転がすという狂気の経済活動の現場を駆けまわったのも団塊世代だった。団塊世代なくしてバブル景気はありえなかった。
 うーむ、なかなか鋭い。胸にグサリと来る指摘が次々にくり出されてきます。
 団塊世代には無党派層の比率が高い。議論好きで、かつては革命的であったはずの団塊世代が、実は政治的無関心を蔓延させ、それが社会的な閉塞感をもたらした。
 この本によると、それでも団塊世代は戦後日本の政治を2度だけは流れを大きく変えるのに貢献したといいます。1度目は1975年の田中角栄の退陣です。私が弁護士になった年、たまたま東京地域あたりをウロウロしていると、田中角栄がさっき逮捕されたという知らせが霞ヶ関をかけめぐっていました。角栄逮捕に同行した検察官は、私の横浜での実務修習のときの指導教官でした。今の小泉首相と同じように、マスコミは角栄を天まで高くもち上げたのですが・・・。
 2度目は、1993年の細川内閣の誕生です。非自民の8党派連立内閣に対して71%の支持率が集まりました。しかし、お殿さまが無様に政権を投げ出したあと、自民党が巻き返すと、団塊世代の多くは沈黙を決めこんでしまった。
 うーむ、なるほど、そうも言えるのかー・・・。団塊世代が学生時代と違って、ちっとも政治的な発言をしないことは事実ですよね。ともかく議員が少ない。もちろん議員になっている人はいます。しかし、こんな人が議員になっていいのかしらん、と思うような人ばっかりのような気がします。少し骨があると思った議員は、早々に自殺してしまいました。
 あれだけ政治を議論し、社会の変革を語っていたのに、政治の表舞台にあがった人の少なさは奇妙な感じがしてなりません。この点はヨーロッパともかなり様子が違うようです。フランスやドイツでは、あのころ街頭で名をはせた学生指導者が政治のリーダーに大勢なっていると聞きます。どうして日本はそうならなかったのでしょうか・・・。
 この本は、最後に団塊世代に呼びかけています。いよいよ定年退職を間近にして、自分の年金がどうなるのだけを心配している団塊世代に対する熱烈なアピール、そう思ってしばし耳を傾けてください。
 あなたたちが求めるべきは、年金の保証ではなく、60歳を過ぎてからも働いて社会に貢献できる環境であり、労働に対する正しい対価であるはずだ。
 そしてなにより、より若い世代が、やりがいのある仕事に就くことができ、子どもの可能性に対しては平等な機会が与えられるような社会であるはずだ。
 戦争と差別に反対し、一度は命がけの覚悟で立ち上がったではないか。その問題提起は、ある意味で正しかったことが、今まさに証明されているのではないか。
 あなたたちの子どもの世代は、勝ち組、負け組などと選別されようとしている。かつて疎外からの解放を叫んでいた身として、こうした言葉を聞いてなんとも思わないのか。
 かつてベトナムの子どもたちを殺す戦争には荷担できないと叫び、授業をぶちこわしたのに、今や自衛隊はイラクにまで行っている。若い世代の日本人が、大義なき戦争に駆り出され、砂漠で無意味に殺されるかも知れず、国家の命によってどこかの子どもを殺すかもしれないのだ。これを黙って見過ごすのか。
 団塊の世代は、このまま消えていくべきではない。もう一度、立ち上がるのだ。必要なのは、次世代のため、連帯を求めて孤立を恐れないこと。そうすると、下の世代も、必ずや後に続くだろう。
 久しぶりによくできたアジテーションを聞く思いでした。ここで指摘されているとおりだと団塊世代の一人として思います。私もあきらめることなく、もうひとがんばりするつもりです。私の親しい知人が1968年の東大闘争と学生セツルメントを長編小説にまとめ、近く本として発刊することになりました(「清冽の炎」、花伝社)。
 どうせ、そんな本、誰も読みやしないよ。いや、団塊世代は人生の総括時期にきているから、きっと読むはずだ。このように相反する2つの意見があります。いったい団塊世代は1968年ころ、どう生き、どんな青臭い議論をしていたのか。記録にもとづいて刻明に再現したノンフィクション風の小説です。ぜひ、あなたも読んでみて下さい。

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